ショートショート「悪魔がささやく誕生日」

十文字ナナメ

プロローグ

どうしたんだい。

やけに浮かない顔をしているじゃないか。


亜久間あくま先生。

ぼくは、人より劣っているんです。


おや、そんな風に考えるのは、穏やかでないね。

どうだろう。

どうしてそんな風に思うのか、先生にも分かるように、話してごらんなさい。


はい。

エヌちゃんの誕生日のことです。

ぼくは、エヌちゃんをお祝いしたいと思いました。


どんなお祝いをしたんだい。


エヌちゃんと二人で、動物園に行ったんです。


動物園というと、最近できたばかりの、あの大きな動物園かい。

でも、あそこは確か、子供だけでは、入れないんじゃなかったかな。


そっちの動物園じゃありません。

昔からある、山の上の動物園です。


ああ、市が運営している方か。

公園と一緒になっている、無料で入れる動物園だね。


そうです。

動物園というには、少し小さめだけど、ぼくは好きです。

小さな動物に、じかに触れ合えるコーナーがあるんです。


とても素敵なお祝いじゃないか。

それなのに、どうしてきみは落ち込んでいるんだい。


ケイくんのことなんです。


ケイくんがどうかしたのかい。


ケイくんも、エヌちゃんをお祝いしたんです。

ぼくと違って、ケイくんはプレゼントをしました。

それも、とてもお金のかかるプレゼントだったみたいです。


でも、きみたちはまだ子供じゃないか。

高い買い物をするには、無理があるんじゃないのかな。


お金は、お父さんに出してもらったと、ケイくんは言っていました。


そう。


きれいな花束と、宝石みたいなチョコレートと、豪華な洋服でした。

どれも、百貨店で買ってきたそうです。


うん。


……どうですか。


どうって、何がだい。


ぼくには、ケイくんみたいなプレゼントは用意できません。

ケイくんに比べたら、ぼくがしたお祝いなんて……。

だから、ぼくよりケイくんの方が、ずっと優れているんです。


それで、自分は人より劣っているなんて考えたのかい。


考えたことではなく、本当のことです。


そうかな。

きみはどうして、エヌちゃんを動物園に連れて行こうと思ったんだい。

連れて行ける場所は、動物園だけじゃないだろう。

図書館とか、運動場とか。


エヌちゃんは、動物が好きだからです。

運動や読書より、動物といるのが好きだと言っていました。


動物園に行って、エヌちゃんはどんな様子だった。


とても楽しそうでした。

ウサギやモルモットを抱っこしたり、餌をやったりしていました。

その時は、特に嬉しそうに見えました。


そうだろう。

幸せというのは、簡単に比べられるものじゃない。

先生はそう思うよ。

悩みを打ち明けてくれた代わりに、先生からも、短いお話をしてあげよう。


どんなお話ですか。


小さな二つの物語だよ。

二人の悪魔の物語だ。


悪魔って、あれですか。

願いを叶える代わりに、魂を奪うという。


そう、その悪魔だ。

といっても、この二人の悪魔は、魂はとらない悪魔なんだけどね。

一人の悪魔は、たくさんの大きな願いを叶える悪魔。

もう一人の悪魔は、たった一つの、小さな願いを叶える悪魔なんだ……。

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