第44話 諜報員ラッセル ①
「ラッセル、貴方は扉を閉めてここで待っていて」
そう言って他国の聖人であるケイト様と我が国の聖人クロス様は扉の向こうへ行ってしまった。
扉の向こうに兵士がズラリと並んでいたのを見て驚いたけれど、聖人クロス様の能力を知っている為に負けて捕まったりする事は無いだろうとは考えている。
私がここで待たされているのは、私が人質に取られたりスキルの巻き添えになるのを避ける為だ。
だが、お二人の戦闘に時間が掛かってしまうと門のこちら側も大変な事になるでしょう。
何せ、西門への通路に20人もの兵士が倒れて死んでいるのですから・・・
門の前で通路を確認したり門にへばり付いてそとの様子に聞き耳を立てていると、門壁の上に続く石の階段から人が降りて来る足跡が聞こえて来た。
ジャッ、ジャッ、ジャッ・・・
降りて来たのは1人の女だ。
いや、ただの女じゃない。
あれは門の外にいたキグナス連合王国の御使いである聖人エカテリーナ。
ラッセルは慌てて門の前を離れ、街へ伸びる通路へと移動した。
この位置ならいつでも街へと逃げ出せます。
「アナタね。逃げた転移者の協力者は」
聖人エカテリーナは私を睨みつけると声をかけてきた。
「いえ、私はここに偶然居合わせた街から街への行商人です。こちらへは・・・」
私が自分に設定された役割を交え、今の状況を語ろうとすると
「別に言い訳の必要はありません。アナタの事は何度も占いに出て来たから、リンクスの諜報員だという事は判っているのです」
「う、占い?」
そう言えば占術を使う聖人がいるとケイト様が言ってたな、この方聖人エカテリーナがそうだったのか。
だとすると、クロス様達が負けた?
・・・いや、だとしたらキグナスの聖人は3人全員が揃って行動しているハズ。
私と一緒で戦闘からはハズされた?
占いのスキルという事であれば、荒事は一般人程度なのかも・・・
諜報員としての訓練は受けているから、私自身は一般人よりは強いと自負している。
なら、私はこの聖人を捕えるべきなのか、それとも街へ逃げ出すのがいいのか。
迷っている私に対しキグナスの聖人は、からかう様な口調で私に語り掛けてきた。
「リンクス王国の聖人の正確な降臨場所を、降臨の半年前に言い当てたのはワ・タ・シ。その意味は解るかしら?」
我が国の・・・・なっ!?
聖人エカテリーナの言葉に頭の中が一瞬で熱くなる。
これは隠す事の出来ない程に強い怒りの感情だ。
諜報員として感情をあまり表に出さない様にしていたけれど、これは止められない。
リンクス王国が待ちに待っていた聖人を、降臨したその日に奪われたあの忌まわしき事件。
それを招いた原因が私の目の前にいるのだと自分で言っているのだ。
「ええ、解りますとも」
恐らく、私が街の中へ逃げずにここへ残る様にしむける為の釣り餌なのだろう。
けれど、リンクス国民の1人としてこの聖人を前に逃げ出す訳にはいかない。
私は背負っていた荷物をその場に降ろすと、護身用の片手剣を腰の剣帯から引き抜いた。
「あら、何がでしょう」
「貴女がリンクス王国の国民にとって許せない敵だという事がです!」
異世界リベリオン 80000太郎 @80000tarou
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