不義の子と最終決戦

第50話

 あっと言う間に華祭り当日を迎えた。

 自室で露火がこの日のために用意して来てくれた衣装に着替え、露火の最側近である仙鋼牙の護衛で会場を移動した。


 直接会ったのは初めてだが、鋼牙の帯に付けられた玉飾りは詩兎が自ら研磨した石であることがすぐに分かった。

 何度も詩兎を指名で依頼をしてくれた鋼牙に直接お礼を言うことができて幸運だったが、鋼牙は『今後は依頼が難しくなりそうですね』と苦笑した。


 いつでも引き受けるので遠慮せずに言って欲しい。

 露火の最側近なのだから、それに見合うものを身に着けてもらいたいと詩兎は思った。



 最終選考に選ばれた二名は皇帝陛下を含めた選定者から作品を見定められる。

 そこで祭壇に奉納される竜眼石が選ばれ、皇帝陛下の手によってそのまま神殿に運ばれ、祭壇へと納められるのだ。


 詩兎は緊張を悟られないよう、すまし顔で歩いた。

 会場の中央に置かれた二つの台には提出した竜眼石が白い布を被せて並べられている。


 布を取り払い、初めてお披露目となる。


「ほら、見て。竜王殿下の愛人よ」

「卑怯な手を使って殿下に言い寄ったらしいぞ」

「最終選考まで来れたのも竜王殿下の口添えのお陰らしい」

「そもそも竜眼石が扱えないんだろ? 研磨なんて出来るわけないじゃないか」



 詩兎が会場に入るとすぐに詩兎を嘲笑する声が耳に入り、弱くなりそうな心を強く持つために拳を握る。


 中には明らかに詩兎を罵倒するような発言もあり、詩兎は針の筵になったような気持ちになる。


 詩兎はまっすぐ前を見据え、中央の台まで進み出た。

 皇帝陛下の近くに皇族である露火が不敵に微笑む姿が見え、『問題ありません』と言われているようで少しだけ安心できた。


 露火が近くにいるだけでこんなにも心強いとは思わなかった詩兎は自分の中で露火の存在が既に大きくなっていることを自覚する。


「何でお姉様がここにいるのよ」


 華陽は現れた詩兎を見て言った。

 この日のためにとより一層華やかに飾り立てた華陽はこのまま結婚式でも上げられそうなほど華やかな装いをしていた。


 それに対して詩兎は品のある衣装で厳かな行事である華祭りの最終選定に相応しい装いと言えた。


「それはこっちの台詞よ。研磨なんて出来ないあんたがどうしてここに?」


 詩兎は訊ねる。

 

「そんなの決まっているじゃない。私が今回の華の研磨師だからよ!」


 その自信はどこからくるのよ。


 胸を張って言い切る華陽に詩兎が頭痛がした。

 

「お姉様こそ、よくも私の旦那様を誘惑してくれたわね。私のものが欲しくなるのは分かるけど、意地汚いにも程があるわ」


 詩兎を蔑むような目を向けると竜眼石が並べられた台に向き直る。

 詩兎も同じように竜眼石に被せられた布が取り払われるのを待った。


 

「では、公開する」


 係りの者が同時に布を取り払い、詩兎の作品と華陽の作品が日の元に晒された。

 

「な⁉」


 あちこちで作品に対しての歓声が上がる中で、詩兎は華陽の作品を見て驚愕した。

 

 何であれがここに⁉


 華陽が作品として提出した竜眼石は菖家当主である菖畝山が孫姫の婚礼祝いの品として受注制作したものだ。

 直接渡すことができなくなった詩兎が天音達に必ず菖家に渡るように託したはずだった。


 それが何でここに⁉


 間違いなく詩兎が作ったものだ。

 そんなことはすぐに分かる。


 詩兎が唖然としていると華陽の向こう側に華陽を見守る陶辰の姿が視界に飛び込んで来る。

 傲慢な笑みを浮かべる陶辰の顔を見て詩兎は全てを察した。

 

 このっ! 馬鹿親子!!

 

 菖家の婚礼祝いの作品を自分のものとして提出したのだ。

 製作者は詩兎だ。

 最終選考まで辿り着けたのもある意味納得だ。


「どちらも素晴らしい作品だな」


 皇帝天翔は感嘆の声を零す。


「美しい紫陽花だ。青と緑の調和が素晴らしい」

「青い薔薇も花と茎の色味が明瞭で美しいな」 



 二つの作品を品定めする声があちこちから上がり、紫陽花を称賛する声と薔薇を称賛する声に別れた。


 こんな不正見逃せるわけない!

 

 詩兎は審査員に不正の事実を伝えようとした時だ。


「よろしいでしょうか?」


 詩兎が声を上げる前に華陽が挙手をし、そこに審査員や見物人の視線が集まる。

 そして視線が充分に集まった頃、華陽はニヤリと詩兎を見て笑った。


「この作品は盗作です」


 そう言って華陽が詩兎の紫陽花を指した。


「何言ってるのよ⁉」


 やられた!

 

 詩兎が不正を指摘する前に華陽が詩兎の作品を貶めたのだ。

 華陽の衝撃的な発言に周囲は騒然とする。


「この方は竜眼石を全く扱うことができません。つまりは竜血の者ではありません。それなのにどうして竜眼石の研磨をすることができるのでしょうか?」


 華陽は公然と言い放った。


 詩兎が最も疑問に思っていることを皇族のいる場で高らかに語る。

 

「その通りだ。竜血の者でなければ竜眼石の研磨はできない」

「竜眼石を扱えないのなら、研磨なんてできない。やはり不正を働いたのか」

「研磨姫を貶めようとこんな所まで出てきたのか?」

「何と身の程知らずな」


 あちこちから詩兎を非難する声が飛んでくる。

 詩兎は周りの勢いに押されて唇を噛み締めた。


「違います! 私は決してそのような真似は―――――」


 否定の声を上げた時、視界に大きな炎の球体が現れたのだ。

 誰かが竜眼石で作り出した巨大な炎が詩兎を裁こうと凄い勢いで迫って来る。


「っ……!」


 詩兎は声を出す間のなく炎に飲み込まれた。

 炎の向こうで華陽が下品な笑みを浮かべる姿が映り、詩兎は目をきつく閉じながら悔しさで歯を食いしばった。

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