ハート・ボイルド⑤
崔 梨遙(再)
1話完結:1000字
操は、探偵事務所での大活躍を始めた。黒沢のようなヘマはせず、浮気の証拠写真をゲットしてくるのだった。そうなると、仕事が増えてる。黒沢は、微妙な気持ちだったが、内職をしなくても良くなったのは嬉しかった。だが、出来れば自分が活躍したい。笑われるかもしれないが、黒沢には男としてのプライドがあった。だが、お手柄の操を褒めて、操を大切に扱った。
そんな或る日、超常現象解決所の方の依頼人が来た。男だった。男は刃(やいば)と名乗った。長身のイケメンだった。
「惚れ砂を売って欲しい」
「またそれかーい!」
「売ってくれないのか? 金ならあるぞ」
「僕は惚れ砂で商売していないんや。話を聞いて、納得したら無料でやるわ」
「俺は風使いなんだ。国のため、闇の仕事を引き受けている。悪いことはしない。俺には想い人がいるんだ。分家の風子というのだが、俺は風子と結婚して、普通の幸せを味わいたい。風子と俺の子なら、すごい術者が生まれるだろうしな」
「わかった、1瓶あげるわ。頑張って日本を守ってくれ」
「ありがたい、いただいていくぞ」
また、客が来た。今度は長身の美人の女性だった。女性は風子と名乗った。風子は風使い。本家の刃と結ばれたいというのだ。さっき聞いた話によく似ている。とりあえず、黒沢は風子に惚れ砂を渡した。
風子が刃を自分のものにするというので、黒沢は立ち会うことにした。場所は、港だった。
「風子、黙って俺に身を委ねろ」
「そんな怖いこと出来るわけないでしょう?」
「では、風を使うぞ」
「私だって!」
風と風がぶつかり合う。当然だ。追い風を作らないと砂が相手に届かない。しばらく風と風のぶつかり合いが続いたが、“ふう”2人は疲れて肩で息をするようになった。そこへ、黒沢が近づいた。
「刃君、風子さん、戦わなくてもええんやで」
「何を言ってるんだ? 黒沢さん」
「そうよ、刃にこの砂をかけないと」
「砂? 惚れ砂か?」
「そういうことや、刃君と風子ちゃんは両想いなんや。砂なんか、必要ないねん」
「そうか、風子……お前……」
「刃……私のことを思って……」
「さあ、もう惚れ砂はいらんやろ」
「いや」
「念のため」
刃は風子の頭に、風子は刃の頭に惚れ砂をかけた。自分達の恋心を信じられなかったのだろうか?
帰ってからその話をすると、操が話に食いついてきた。
「そうだ! 私も影夫さんに惚れ砂をかけたーい!」
黒沢は、操をなだめるのに必死だった。
ハート・ボイルド⑤ 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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