登山女子とのんびり山歩き ~可愛い後輩と大自然に癒される贅沢な休日~

南 コウ

0合目 気になる後輩と待ち合わせ

(ぷしゅーっとバスの扉が開き、乗客が降りて行く音)


「先輩! こっちですよ~!」


(後輩が駆け寄ってくる足音)


「おはようございます! 今日は来てくれてありがとうございます!」


「いいお天気で、絶好の登山日和ですね」


「え? 私が登山に誘ったのは意外でした? アクティブなタイプには見えなかったから?」


「ふふっ、確かにそうかもしれませんね。私、学校では図書室で読書ばっかりしていますからね。目立たないタイプですし、アクティブなイメージはないですよね」


「でもこう見えて、登山好きなんですよ。ソロ登山もしているくらいですから。割とアクティブなんです」


「それじゃあ今日は、いつもと違った私をお見せできるかもしれませんねっ」(嬉しそうに)


「先輩こそインドア派だって言っていたから、誘っても来てくれないかと思いました」


「……え? 本当は登山とか興味なかった? ええー、それなら断ってくれても良かったんですよ!? 気を遣わせてしまってすいません!」


「え? 誘ったのが私だったから来てくれた? そ、そうなんですね……。それはちょっと嬉しいです」(照れ気味に)


「ん? この服ですか? 登山ウェアです」


「最近は可愛い登山ウェアもたくさんあるんですよ。私は今日着ているみたいなショーパンにタイツを合わせるスタイルが多いですね。トップスは気候によってシャツにしたりジャケットを羽織ったり。今日は暖かそうだったので、シャツにしました」


「アクティブな感じで可愛い? うー……先輩、サラッとそういうこと言うー……」(恥ずかしそうに)


「先輩の私服もカッコいいですよ? 制服の時とは雰囲気違うからドキッとしちゃいました」(最後の方は小声で)


「それにトレッキングシューズも用意してくれたんですね。安心しました」


「お小遣い前借りして買ってもらった? ふふっ、懸命な判断ですね」


「靴だけは専用のものを選ばないと危険ですからね。普通のスニーカーだと滑ってしまうかもしれないので」


「あ、リュックも登山用のものを買ったんですね。ちょっと見てもいいですか?」


「わあー、たくさん入るタイプですね! これなら泊まりでも行けそう。もしかして先輩、形から入るタイプだったりします?」


「登山は今日が初めてなんですよね? それじゃあ今日は、私が手取り足取り教えてあげますね。どーんと頼ってください。山の楽しさをいーっぱい教えてあげます!」


「今日登る山は、登山道が比較的整備されているので初心者にもおすすめなんですよ。そこまでハードじゃないので、のんびり歩きましょう」


「さっそくコースの確認をしましょうか。今、私達のいる停留所から北に向かうと稲荷神社があります。そこから登山道に入って、河童滝と天狗岩を経由して、山頂まで向かいます。帰りも同じコースを往復します」


「随分詳しいんだねって? この山は何度も登っていますからね。道案内はお任せください」


「それに安全に登山を楽しむにはプランニングが大事なんですよ。私も登る前は、コースや歩行時間や難易度を確認しています。登山地図を見ながらプランニングする時間も結構楽しいんですから」


「それじゃあ、早速登りましょう! ……と言いたいところですが、まずは準備体操から始めましょう」


「いきなり登って怪我をしてしまったら大変です。まずはストレッチして身体をほぐしましょう」


「やり方は私が教えますね。一緒にやってみましょう」


「まずは、ふくらはぎのストレッチです。脚を前後に開いて、ぐーっと前に体重をかけてください。……そうそう、そんな感じです! 反対もやってみましょう」


「次に太もものストレッチです。右足を後ろで持って、太ももの前を伸ばしてください。……って、先輩フラフラしすぎ! 私の肩に掴まりながらでいいですよ」


「遠慮しないで肩に手を置いてください。体重かけちゃってもいいですよ。あ、そんな感じで」


「片足で立ったら、ぐーっと太ももの前を伸ばしてください。そうそう。反対も」


「はい、おっけーです」


「今度は肩のストレッチをしましょう。両手を頭の上でぐーっと伸ばしてください。上まで持っていったら手を交差させて背伸びをしてくださいね。……はい、おっけーです!」


「お次は首をゆーっくり回してください。首の筋肉をほぐすようなイメージでぐるーっと。反対も。……はい、おっけーです!」


「最後に前屈をしましょう。身体を前に倒してください。……って先輩、身体固いですね。これは想像以上だ」


「もうちょっといけるんじゃないですか? 背中押しますね。えいっ」


「痛い痛いって? ごめんなさい! やり過ぎちゃいましたかね?」


「準備運動はひとまずオッケーです」


「もしかして先輩、運動はあまり得意じゃなかったりします? 準備運動だけですけど、そんな気がして……」


「あー、図星なんだぁ。意識的に運動しないと体力落ちちゃいますよ?」


「先輩の身体が心配です。私で良ければ、身体を動かすお手伝いをしますよ? 登山で良ければいつでもお付き合いしますから」


「ふふっ、結局それかよって? せっかく身体を動かすなら、楽しいことして動かしたほうがいいじゃないですか。その方が長続きしますよ」


「今日は先輩をあの手この手で登山沼に落とすことが密かな目標なので、覚悟しておいてくださいね」


「そうだ! せっかくなので山に登る前に神社でお参りしておきましょうか。無事に戻って来られるように神様にお願いしないと」


「行こっ、先輩!」


(後輩が走って行く足音)




――神社にて


(風で木々が揺れる音、鳥の声)


(後輩が深呼吸する)


「神社に来ると清々しい気分になりますね。邪念が払われるといいますか」


「さっそくお参りしましょうか。今、人もいないことですし」


(後輩が砂利道を歩く音)


「拝殿に着きましたね。それじゃあ一緒にお願いしましょう」


(鈴を鳴らし、賽銭箱に小銭を入れ、二拍手)


「無事に帰って来られますように。あと先輩に好きになってもらえますように」(小声で)


「ん? どうしました? そんなびっくりした顔をして」


「……え? お願いごとが声に出てた? 嘘……! 恥ずかしい……!」


「あ、あの、あれですよ! 好きになってもらえるようにっていうのは、山のことですから。先輩が山を好きになってくれたらいいなーって」


「変な意味じゃないですよ! 本当ですって……」


「と、とりあえず、山に登りましょう、ね?」

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