大切なこと

@Yuinosuke9

普通の部屋

 5月、街はだんだんと緑色に染まり始めた。時折ブーンという虫が耳元を通り過ぎる音がする。私は先月大学生になった。そのときはまだ桜もぎりぎり残っていたのに。過ぎてゆく時間の早さに驚き、スーパーで買った食料品の重さに驚き家へと急ぐ。

 あと5分…。少しずつその時が近づいている。ピンポーン。

「はぁい。」

少し裏返った私の声。速歩きで玄関へ行き、ドアを押す。

「やっほー。今日はお招きいただきどうもありがとー!」

敬語とフランクな言葉が混ざって大変なことになっている。

「舞の家初めてだからめっちゃ楽しみにしてたんだー!」

舞、私の名前だ。今日は大学で初めてできた友達、華乃とホームパーティーをする。重かった食料品はそのためのもの。おめかしをした華乃は普段キャンパスで会う雰囲気とは違う。私の家だからそんなおめかしなんて必要のないのに…。そう思ったのはここだけの秘密だ。

「舞の家ってきれいだね。ちゃんと整理整頓されてる。」

「そう?何にもなくてびっくりでしょ?」

華乃はきれいと言ってくれたけど、実際はものが少ないだけなのである。必要最低限のものだけでいい。普通でいい。そう思うたびになにかをゴミ箱に投げ入れていた気がする。

「その点、華乃は私と全然違いそう。」

私はいつの間にか小声でそうつぶやいていた。

「ん?なにか言った?」

華乃には聞こえていなかったらしいがとても心配そうな目でこちらを見ていた。

「よし!時間も限られているんだし、どんどん準備しよう!」

無理やり話題を切り替えようと私は今日1の大きな声で華乃に話す。

「うん。どんどんやってこー!」

華乃も今日1の大きな声で答える。準備する体が軽く感じる。それほど今日を楽しみにしていたんだ。自然と広角が上がっていくのを感じた。

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