第10話 ゴブリン討伐
勇者の仲間二人とルナテラスさんと共に魔王軍四天王、メルティを倒した僕。
見事、Eランクに昇格した。
ユニークスキル、しりとり魔法も覚えたところで快進撃!
と、いきたいが、そうもいかないのだった。
僕が四年間Fランク冒険者だった事実は変わらない。
仲間はいないし、募集をかけても集まらない。
一人で受けられる仕事はかなり限定されてしまう。
四天王撃破といっても単独ではない。
勇者の仲間達がすごいのだろう、くらいにしか認知されていないのだった。
そんなこんなで弱っていた僕だったが、受付のイネスさんから依頼を持ちかけられた。
メンバーをギルドで選定しての依頼だと言う。
魔王の出現からこっち、魔物との戦いは激化の一途で人手不足らしい。
メンバーが選定されるなら仲間はいるという事だ。
僕は依頼を二つ返事で引き受けた。
この依頼の中で仲間に実力を示す事ができれば、今後パーティーを組む事だってできるかも知れない。
「お待ちしておりました! リンクス殿!」
赤毛のおかっぱと黒縁眼鏡のギルド受付、イネスさん。
今日もはきはきして元気だ。
「資料を用意しますのでこのテーブルでお待ち下さい!」
通された四角いテーブルには他に二人の着席者がいた。
この二人がパーティーメンバーなのだろう。
挨拶の一つもして心証をよくしようか。
そう思って二人の姿を確認した僕は固まってしまった。
一人はポニーテールの女の子がいた。
腰に長い鞘に入った剣を刺している。
見覚えのある子だ。
「し、知らない人達と冒険なんて緊張するな……。
そうだ……!
エンゲル係数を数えれば落ち着くって。
でもエンゲル係数って何だっけ?」
何やらブツブツ言っている。
間違いなくこの前のFランク冒険者トレーニングにいた子だ。
「あんだよ?またてめえかよ」
そして、もう一人はこの前のトレーニングでも悪態をついてきた少年だった。
確か槍使い。
「てめえ、4年間Fランクの落ちこぼれだろう」
僕は悪い意味で有名人だ。
今はEランクだけど。
「ちょっと失礼よ。ヒューゴ」
近くの席に座っていた女性が話に入ってきた。
光明教のローブと木の杖。
身なりからすると僧侶のようだ。
この女性はトレーニングの時はいなかったはず。
「あ、わたしはこの子の姉のアミシアです」
弟と違って落ち着いた感じの女性だ。
「あなたもFランクトレーニングにいました?」
「わたしはDランクなんです」
ベルナール達と同じランクだ。
「この子は向こう見ずで、協調性がなくって。
仲間と上手くやっていく事ができなくて。
心配だからついてきました」
お姉さんはなかなか苦労してるみたいだ。
「余計な事を言うなよ!姉ちゃん」
どなる少年。
「いやあ、さっそく親好を深めておられますな。
結構結構! あっはっは!」
資料を持ったイネスさんが現れた。
おおよそ親交が深まったようには見えないけど。
資料を全員に手渡すと、イネスさんは説明を始めた。
「こちらの槍使いの男性がヒューゴさん。
そしてこちらの剣士の女性がカエデさん。
こちらの方は……お姉さんでしたか?」
「はい。ヒューゴの姉のアミシアです。心配だからついて来ました」
「で、こちらがリンクス殿。
最近Eランクに昇格されました」
「す、すごいですー」
「へっ、他の仲間が強かっただけだろ」
「今回はあなた方にパーティを組んで頂いて魔物討伐の任について頂きます」
この前の四天王、メルティは先遣隊に過ぎなかった。
その後も魔王城を拠点として魔界の魔物が多数この大陸に押し寄せている。
「前回のトレーニングの成果もあって、港町マイリスの防衛はかなりできています。
皆さんには付近のゴブリンの討伐をお願いします」
四年間Fランクだった僕と、今もってFランクの二人(とその片方のお姉さん)。
この四人でパーティを組む事になりそうだ。
「ルナテラスさんのトレーニングで多くの冒険者が覚醒しました。
リンクスさんもその一人ですね」
他のFランク冒険者もメキメキ実力をつけているらしい。
さすが激戦区の王都で慣らしてきたルナテラスさんだ。
「ここはEランクになったリンクスさんにリーダーをやってもらいます」
「Dランクのアミシアさんじゃないんですか?」
僕は思わず聞き返してしまった。
「これはあなたにリーダーを経験してもらう意味もあるんです。
ルナテラスさんもユニークスキルユーザーのリンクス殿には期待しておられます」
そういう事なのか。
万年Fランク脱出はルナテラスさんのおかげ。
あの人の期待には応えたい。
「わたしも期待しておりますぞ。しっかり励んで下され。
はっはっは!」
受付に戻るイネスさん。
「それじゃあ行きましょうか」
目的地はゴーレムのいた森より北側。
大陸の北側には原初の森と言われる大森林地帯がある。
そこには強力な魔物も住んでいるが、今回向かうのはもっと手前だ。
草原だが、山岳地帯が近く、地形に起伏がある。
こういう所には魔物の巣ができるものだ。
「この周辺でゴブリンの出現が増えているらしいです。
巣を見つけて討伐して欲しいと」
ゴブリンというのは小鬼とも呼ばれる人型の魔物。
肌の色は緑で、子供くらいの大きさだ。
勝手に縄張りを作っては立ち入った人間に危害を加える。
付近の人間の居住区に食料などを奪いに来る事もある。
強力な魔物ではないけど、徒党を組まれると旅人達には太刀打ちできない。
草原を進む僕らはほどなく、丘の上に数体の人影を確認。
人語を発していないのですぐに分かった。
間違いない。
「ゴブリンだ」
僕は仲間達に小声で注意を促した。
少しずつ距離を詰め、可能なら奇襲を仕掛けたい。
落ちている枝を踏む音にも注意して歩く。
僕は先頭に立ち、抜き足差し足で丘に近づいて行った。
「まずは数を減らそう。
ここで巣に逃げられて集団の相手をするのが一番マズ……」
「うおらあああああっ!」
まずリーダーである僕が手本を示さなければ。
と思っていた矢先だった。
ヒューゴ君が雄叫びを上げながらゴブリン目掛けて丘を駆け上がって行ったのだった。
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