第2話 パーティ追放

 ドアをノックする音がする。


「どうだった? リンクス」


 僕のパーティの仲間たちが入って来た。


 一人は白銀の鎧を纏った金髪の騎士。

 長い金髪は後ろで纏められている。

 僕らのリーダー、ベルナールだ。


 一人は屈強な戦士。大柄で背中には大きな盾を背負っている。

 戦士、ジョゼフだ。


 もう一人は白い光明教の修道服の小柄な女性。

 シスター、ドニーズだ。


 三人とも同い年。

 一緒にシャオンス村を出て来た。


「そうか。

 魔法力の果実でもダメだったか」


 ベルナールは沈んだ声でそう言うと、仲間と目配せした。


「なあ、リンクス。

 ジョゼフとドニーズとも話し合ったんだが、お前はもう田舎に帰ったらどうだ?」


 ついにこの時が来たか、と僕は思った。

 四年間、僕のパーティへの貢献度はほぼ皆無だった。


 みんな、同郷のよしみで四年間一緒にいてくれたが、いよいよ限界のようだ。


「あ、あと一つだけ当てがあるんだ!

 それまで……」


「お前、いい加減にしろよ!」


 ベルナールは激高してテーブルを叩いた。


「魔法が使えない魔法使いって何なんだ!

 お前は腕力だって弱いし、武器を扱うスキルもない。


 僧侶のドニーズの方が戦えるくらいだ」


 確かにドニーズは杖のスキルを持っていて、多少の格闘戦はできる。

 しかし、僕はショートソードで戦っていたが、お世辞にも優秀とは言い難い。


「Fランクのお前よりまともな冒険者と組めば、俺達はもっと大きな仕事ができる。

 もっと上を狙える。」


 三人はDランク。

 僕は何も言い返す事ができない。


「もう限界なんだよ……。リンクス」


 ジョゼフもドニーズも何も言わない。


「とにかくお前とはもうこれっきりだ。

 パーティから抜けてもらう」


 ベルナールは淡々と断言した。

 異論は認めないと言う感じだ。


 ベルナールはこれまでも僕の無能さを散々罵倒してきた。

 始めこそ僕の才能に期待していたが、最近は顔を見れば悪態をついてくる。


 魔力の果実の件で、いよいよ看過できないと言ったところだろう。


「お前さ、料理は得意だろ。

 その道に進んでみたらどうだ?」


 ジョゼフがいつにない神妙な表情で提案してきた。


「調理のスキル持ちの本職にはとても叶わないよ」


 冒険中の料理は僕の担当だったので、料理の腕はそれなりだ。

 しかし、僕のスキルは魔力アップばかり。

 スキル持ちの料理人と勝負できるレベルではない。


「あなたのお父さんは学者さんでしょ。

 その跡を継ぐのはどう?」


 ドニーズも恐る恐る提案する。


「父親はたくさんの本を読んでいて、自分で発掘もしてる。

 そう簡単に同じ事はできないよ」


 それに、僕は父親ほど古代文明に情熱を持ってる訳じゃない。

 あれはおそらく父にしかできない仕事だ。


 でも二人とも親身にアドバイスしてくれているのは確かだ。


 だが逆に言うと二人とも、僕にパーティから抜けて欲しいと思っているという事だ。


 二人からは罵倒されたり、馬鹿にされたりした事はない。

 しかし、内心はお荷物だと思っていたはずだ。


 親身に同情されているのが、いよいよもって最後の一線という感じがする。


「今後の事はお前の好きにしろ。

 とにかくこれからギルドに行って、パーティ登録を解除してもらう」


 三人が出て行き、部屋の扉がバタンと閉じられた。


 この小さな借家だって酒場の副業だけではまかなえない。

 早々に引き払わなければならない。


 料理の道に進むか、田舎に戻って父の跡を継ぐか。

 それも真面目に考えなければならないだろう。


 そうこうしてる間に副業の時間になった。

 僕は酒場に向かった。


 そとに出ると潮風とかもめの鳴き声がする。

 この港町マイリスはセントレーヌ王国の海の玄関口だ。

 僕らも田舎から、船でここまでやって来た。


 もちろん、あの時は希望に燃えていた。

 自分の能力を把握していたら大人しく田舎に引きこもっていただろう。


 僕はまばたきをしてステータスウィンドウを見る。


 魔力特化型の能力値。

 多彩な習得魔法。

 魔法特化のスキルパネル。


 それなのにMPは0。


 人間誰しもが美点と欠点があると言う。

 美点を伸ばせばいいと。


 僕だってそうしようと思っていた。

 得意な事を伸ばそうとしてきたつもりだ。


 でも一つの欠点が他の美点を全て打ち消してしまう。


 僕はきっと何かの間違いで生まれた欠陥人間なんだ。

 世の中にはとりえが本当に一切ない欠陥人間がいるのだ。


 大きくため息をつくとすれ違う人にぶつかった。


「気を付けろ!

 ステータスウィンドウでも見てたのか!」


 怒鳴りつけられる僕。


 ステータスウィンドウは他人には見えない。

 本人にだけ見えるのだ。


 まれにステータスウィンドウの透過が苦手な人間もいる。

「ステータスウィンドウでも見てたのか」は人にぶつかった時の慣用表現だ。



 ちなみに古代文明を研究してる考古学者の僕の父親は、ステータスウィンドウの事を「網膜投影型ディスプレイ」と呼ぶ。


 古代文明の科学の産物で、ナノマシンに個人の情報を解析、数値化して表示させているそうだ。

 これも父親だけが言っている事。


 しかし、ステータスウィンドウは、誰でも物心つけば出せる。

 科学によって与えられたものだなんて信じられない。



 ふと我に返るとステータスウィンドウはスキルパネルになっていた。


 僕はさっき、ベルナールに「あと一つだけ当てがある」と言った。


 その当てがスキルパネルにある。

「魔力アップ」のスキルばかり49個あるが、実はそれだけではない。


 魔法陣型のスキルパネル。

 その中心には「???」と書かれた宝玉が。


 これは未収得のスキルを意味する。

 あと一個だけ、これから覚えるスキルがあるのだ。


 ほとんどの人間はレベル20までには全てのスキルを習得する。

 そこから修練を重ね、スキルレベルを上げていくものだ。

 いまだに未収得があるのは珍しい。


 とは言え、この一個が調子よく、MPを与えてくれるものである可能性は低い。

 むしろこの一個も「魔力アップ」と考えるのが自然だろう。


「当てがある」なんてのはただの苦し紛れだ。


 さあ、酒場の副業に行って、明日は冒険者ギルドでパーティ登録解除だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る