MP0のFランク魔法使い、ユニークスキル「しりとり魔法」を覚えたらSSSランクに! ~ 最速連撃と継戦能力で無双する最強の魔法使い~

隘路(兄)

第一部 王国編

第1話 Fランク魔法使い、リンクス

「Fランク

 駆け出しのルーキー。今後の活躍に期待がかかっている」


 目の前の灰色の枠の付いた、透明度のある青い板にそう書かれている。

 これが僕のステータスウィンドウ。

 僕はため息をもらした。


 僕の名前はリンクス=リーグル。

 18歳。

 冒険者になって4年目。

 ルーキーなんかじゃない。


 それなのにいまだに冒険者ランクは最底辺のF。

 なぜこんな事になってしまったのだろうか。


 僕はまばたきをした。

 すると、ステータスウィンドウの情報が更新される。


 ズラリと並ぶ魔法の名前はマジックリストだ。

 僕は物心ついた頃からたくさんの魔法を習得していた。

 成長に従ってさらに増えた。

 これだけの魔法を習得している者はそういない。


 さらにまばたきをすると、ステータスウィンドウの情報が変わる。

 見たい情報を意識しながらまばたきすると、そのウィンドウに変わるのだ。


 今度はスキルパネル。

 その人の能力の適性だ。


 五重の円形の魔法陣。

 円を描く線の中に宝玉のようなものがいくつもある。

 その宝玉には全て「魔力アップ」の文字が。


 スキルパネルの形はそれぞれ。

 スキルの内容もそれぞれ。


 成長に従い習得する。

 しかし、「魔力アップ」ばかり49個も習得しているのは僕くらいだ。


 さらにまばたきをすると、腕力、体力、器用さ、素早さ、魔力などの項目が表示される。

 僕の能力を数値化した情報だ。


 ほとんどの能力は平均以下だが、魔力だけが高い。

 スキル「魔力アップ」の効果抜きでも、破格の高さだ。


 僕は魔法使いとして極めて高い適正を持っている。

 ある一点を除いては。


 能力値ウィンドウの一番上には、


 ・HP

 ・MP


 の項目がある。


 HPとは生命力を数値化したものだ。

 怪我や病気によって低下する。

 僕のHPは平均以下。

 これも魔法使いタイプのセオリーではある。


 MPは魔法力を。

 魔法力とは魔法を使うたびに消費される魔素の許容量の事だ。


 そして、これが最大の問題。


 なんと僕のMPは「0」なのだ。

 どういう事かと言うと、魔法を使う事ができない。


 魔素を魔法力として蓄積できない。

 魔法の呪文を唱えようとしても、むせてしまう。

 吐き気に襲われる。

 それでも無理やり呪文を口にしようとすると咳込んでしまう。

 ほとんど呼吸困難の発作のようになる。


 たくさんの魔法を習得していて、高い魔力を持っているが、それを使う事ができない。


 宝の持ち腐れの極みだ。


 そして、それ以外の能力は平均以下。

 だから4年間もFランクなのだ。



 でも、僕だって物心ついた頃にはステータスウィンドウくらい出せるようになっていた。

 だからMPが0である事だって分かっていた。


 子供の頃から僕は魔法を使った事がない。


 それでも田舎の学校の先生は都会で魔法使いになる事を薦めた。


 冒険者ギルドで魔法使いに登録すると、MPに多少のボーナスが付く事が理由だ。

 魔法習得の才と高い魔力はもったいないと言われた。

 僕もそれで納得した。

 魔法使いに登録さえすれば僕も魔法が使えるようになる。


 しかし、冒険者ギルドに加入し、魔法使いとして登録してもMPは0のままだった。

 他の能力はギルド登録で上昇しているのに。


 それでも、成長によってこれからMPが上昇する可能性はなくはない。

 僕は冒険を続けた。


 4年間でレベルを20まで上げた。

 しかし、MPは0のままだった。


 魔法の適性は高いが使う事はできない。

 こんな事があるだろうか。



 今さらになって父親が、僕が魔法使いになる事に反対していた事を思い出す。


 僕の父親は考古学者だ。

 失われた古代文明について発掘や研究を行っている。


 父は変わり者だった。

 魔素の事を「ナノマシン」と呼んでいた。

 魔素は科学の産物で、魔法も科学の一部であると。


 父の教えてくれる事は大体、一般常識とは異なっている。

 うっかり鵜呑みにして、友達に話しては、馬鹿にされたものだ。


 その父も0ではなかったが、MPの少ない方だった。


「うちは代々ナノマシンの扱いが苦手な家系なんだ。

 魔法使いなんかやるな。俺の跡を継げ」


 それでも僕は習得している魔法を使いたくて、魔法使いになった。

 この判断は間違いだったのだろうか。



 しかし、ぼくにはまだ最後の希望があった。


「魔法力の果実」


 それを食したものは魔法力が向上するという果実だ。

 貴重品ではあるが、この貿易都市では入手自体はできる。


 この1年間、冒険と副業でコツコツお金をためた。

 今、僕の目の前にある青い干からびた果実がそれだ。


 料理には使えない、期限切れを購入したが、それでも十分に高価だ。

 鮮度が落ちると味は落ちるが、薬効には変化はないらしい。


 果実一個でMP換算でほんの数ポイントだが、それでも0よりはいい。

 これからもコツコツお金を貯めてさらに購入すればいいじゃないか。


 僕は果実を口に入れた。


 酸味がキツイ。

 鮮度の通りの味だ。


 それでもよく味わって食べた。

 最後の希望をこの果実に託して。


 食べ終わっても何の実感もない。


 嫌な予感に体温が下がる。

 魔素を体内に取り入れる感覚くらい、あったっていいはずだ。


 しかし、効果があったかどうかはステータスウィンドウを見れば分かる。

 MPの数値を見ればいいだけの事だ。


 ステータスウィンドウさえ確認すれば……。


 まばたきをするとステータスウィンドウは現れた。

 能力値ウィンドウに目を走らせる。


 MP:0/0


 見間違えではないかと確認したが、そんな事はなかった。

 何度見てもそこには0としか表示されていなかった。


 魔法力の果実をもってしても、僕のMPは0だった。


 髪の色と合わせた茶色のフード付きのローブ。

 この姿が滑稽に、恥ずかしく見える。


 4年前、田舎を出る前に母親が買ってくれたものだ。

 あの時は希望に胸を膨らませていた。

 旅立ちの前は誰だってそうだろう。


 それが今は、暗く惨めな気分だ。

 僕はいよいよ絶望的な気分になってしまった。

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