ハート・ボイルド④

崔 梨遙(再)

1話完結:1400字

 探偵事務所長兼超常現象解決所長の黒沢影夫の前に、怒り狂った男が押しかけて来た。事務員の操の夫の剛太郎だ。操はその場にいなかった。


「なんやねん? 朝っぱらから騒々しい」

「お前、俺の女房を寝取っただろう?」

「あ、ほな、あんたが剛太郎さん?」

「そうだ。裁判にして、ガッポリ慰謝料をもらうからな」

「そうなんや、ほな、これを慰謝料ということで」

「なんだ、この小さすぎる瓶は?」

「砂かけ婆からわけてもらった惚れ砂ですわ」

「惚れ砂?」

「効き目は言うまでもないでしょう、操さんは、この砂で手に入れましたから」

「ほー! そんなにスゴいのか?」

「剛太郎さん、20年も連れ添って、操さんに飽きてるんでしょう?」

「いや、そんなことは……」

「これさえあれば、好きな女性と再婚、第二の人生を過ごせまっせ」

「わかった、この砂をくれ。それで示談、円満解決だ」

「ふ」

「ふふ」

「ふふふ」

「ふふふふふ」

「ふふふふふふ」

「あーっはっはっは」


 クズはクズ同士、気が合うらしい。



 後日、黒沢は剛太郎にカフェに呼び出された。黒沢が入ると、剛太郎は先に来て待っていた。チョコレートパフェを食べていた。


「なんでしょう? 剛太郎さんとの話は終わったと思うんやけど」

「操とは仲良くやってるか?」

「はい、ごっつ仲良いですよ。子供を作る話も出ています」

「そうか、それは良かった。それでな、惚れ砂をもう少しわけてもらえないだろうか?」

「あれは量の少ない貴重品なんですよ」

「今度は料金を払う」

「でも、剛太郎さんも素敵な女性と婚約中でしょう? なのに、なんで?」

「嫁は決まった。30代前半のいい女だ。嫁として満足している。俺に惚れてるしなぁ。だがなぁ、恋人と愛人も欲しくなったんだ」

「ふーん、なるほどねぇ。その発想は僕にはなかったですわ」

「後、2回分くれ! それで俺は幸せになれるんや」

「ほな、2回分。また仕入れに行かないといけないなぁ」

「これ、商品として売ったら大儲けできるぜ」

「みんながみんな、惚れ砂をを使う世界……それは良くないと思いますわ。こういう必殺技は、ごくたまに使えたらそれでええんやと思いますよ」

「それで、今回の2つは無料か? 有料か?」

「はい、無料でいいです。これで商売をする気にはなれませんので」

「ありがとう! いつか何かで恩返しするから」

「では、これで」

「ありがとうー!」



 それから2週間後、剛太郎が慌てた素振りで黒沢の事務所に駆け込んできた。


「なんなんですか? 剛太郎さん」

「助けてくれ、殺される」


 剛太郎に続いて3人の女性が包丁を持って黒沢の部屋に踏み込んできた。


「私は恋人って、どういうことよ?」

「私は愛人? ふざけないで」

「本妻の私以外に、こんな女性達と関係を持ってたんですね」


「まあまあ」


 黒沢は剛太郎と3人を手錠で繋いだ。


「黒沢さん、どうするんだ?」

「砂かけ婆から、惚れ砂の効き目をなくす砂をもらって来ます。それまで、ここで4人で話し合ってください。あ、包丁は取り上げますよ。危ないから」


「操さん、後は任せてもOK?」

「はい、大丈夫です」

「危なくなったら真っ先に逃げてや」

「はい」

「ほな、砂かけ婆のところへ行ってくるわ」



 実は、黒沢も恋人と愛人を手に入れようと動きかけいていたのだ。先に剛太郎が動いてくれて良かった。3人に砂をかけると、こんな風になるということがわかった。危ないところだった。



※恋人は砂かけ婆②に続きます。







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ハート・ボイルド④ 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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