先輩の幽霊

天川裕司

先輩の幽霊

タイトル:先輩の幽霊


私はいじめられている。

人に、感情に、孤独に、

挙句は自然にまでいじめられてる?環境にまで…?

そんな思いに暮れることすらあるほど、

私は荒んだ。人として荒んだ。


(回想)


悪党「ひゃははw別に減るもんじゃなし!イイじゃないかw」

悪党「オラオラ!もっと俺たちを楽しませろよw」

悪党「そうよそうよwもっと楽しませてよ!♪」


本当にひどいいじめ…と言うかもう犯罪で、

たまたま好きになった人がその悪党の中の一味で、

その人の普段の悪逆非道ぶりに気づき

ふと離れようとしたその時、

その人はそれまでとは打って変わったような

悪党の本性を私の前に現し、

それから私をいびり、どうせ別れるのならと

私の人生をめちゃくちゃにする計画を立てたようだ。仲間と一緒に。


私は大勢から袋叩きのようなものに遭い、

人に言えないことを散々された後、

それからもずっと標的にされ続けた。

その悪党の中には男女が入り混じっており、

男と女、両方から責め立てられたのだ。


「…どうして、どうしてこんな目に遭わなきゃ…」

当たり前のことを当たり前に思う。


でもこれが現実なのかと受け入れたとき、

この現実を独裁者のように全てを滅ぼし尽くしたい…

良い人の顔も心も確かに浮かんではきたが

それを凌駕するほど怒りと絶望がうずまき、

私の全てを支配しそうになっていた。

もう時間の問題だ。

そうなるのは時間の問題…


でもその事の前後で、私にはもう1つ、

少し気になることがあった。

それはある日から、私につきまとうようになった女の存在。

それは悪党の中の一味と言うのじゃなく、

全く別のところから来たような

そんな新しい風を吹き入れてくれた人?


でも良い人なのか悪い人なのか、その辺りがまだよくわからず、

私の中に確かな不安はあった。


そしてまた同時期ごろに、私はそのことが影響して

自律神経失調症・パニック症に陥っていた。

人混みに入ると過呼吸になり、

実際、その場でうずくまったこともあった。

大丈夫ですかと実際声をかけられたこともあった。


夜には眠れず、パニック発作というものに襲われた時、

血圧が上がったり下がったりを繰り返し、頻脈になり、

目の周りに星が飛んだりして、気を失いそうになることもある。

実際ネットの情報などにも

「パニック発作に陥ると自分がどうにかなってしまうんじゃないか?」

「このまま死んでしまうんじゃないか?」

「などの猛烈な恐怖に襲われる」

とあるが、あれは本当にそのまま。

でも現実では、それを実体験した人にしか

わからないことかもしれない。


アンコントロールの状態でそれらがやってくるのだ。

「なんで…どうしてこんな目に…」

こんな目に遭うぐらいなら生まれてきたくなかった…

私を産んでくれた親には悪いけど、正直がそう言う。


それから何度も心療内科に通っていたが、

主治医「それで倒れる事は絶対にありません。気持ちの問題ですから」

主治医「…分りました。それじゃ対処しましょう。いつもよりお薬を多めにあげます」

そんなことの繰り返しで、確かに心がホッとして

安心し、ありがたいと感謝したこともあったが、

主治医だって結局はこの苦しみのことを隅々まで

わかってないんじゃないかな…ってのが結論だった。


「あの病院に行ったら薬漬けにされる」

そんな噂も口コミで立っていたけど、

それももしかすると或る程度本当の事かもしれない。

だから私は今、もらった薬をあえて飲んでいない。

パニック発作に陥った時の頓服用の薬だけ、

いつも財布に忍ばせている。そんな生活。


そんな時に、あの見知らぬ女が

私につきまとうようになっていたのだ。

どこへ行ってもあの女がどこかにいる。

それを見つけるのだ。


「…あ、また居る、あの人」

気晴らしに街中を歩いていた時あの人がいた。


CDを買った帰り、夜道を歩いていると、向こうのほうに

「あ…」

やっぱりあの人がいる。


また嫌な思いをさせられ、自らこの世を

離れようとしたけど勇気が出てこず、

また家に帰ろうとした時、

「あ…」

あの人がまたすれ違うように去っていった。

あの人がやっぱり居たのだ。


でもここは富士の樹海。その入り口。

そんな所に普通来る?

絶対あの人は私をつけ回している。

私のことを知っている人。


でもなぜか、嫌な人の気がしなかった。

これは直感だったかもしれない。

良い人とも思えなかったけど悪い人じゃない。

こんな目に遭っていたからかもしれない。

でも、私はあの人のことが気になっていた。


そんな時に、不思議なことが連続して起きた。

私をいじめていた、いびり続けた、

人生をめちゃくちゃにし続けていたあの悪党たちが、

1人ずつ、どんどん事故や何かでこの世を去っていったのだ。


悪党「うわあ!!」

悪党「ぎゃああ!!」

最後に残ったのは、私が昔好きになったあの人。

私を裏切って散々いじめ続けてくれたあの人だが、

その人も…

元恋人の悪党「う、うわあぁあ!!」

工事現場の横を歩いていた時上から鉄板が落ちてきて

その下敷きになり、ぺしゃんこになって死んでしまった。


「どうして…まさか…なんでこんなこと…」

もちろん私は何もしていない。

私は私で自らこの世を去ろうとしていた人間だ。


こんな時、警察が決まって近しい人間を探ろうと

私の元へくる可能性もあったのだが一切来なかった。


私が「元恋人がそうして死んだ」と言う最後の

ニュースを聞いたのは、

又この世を離れようとして来ていた廃屋工場での事。


実際、鉄柱からロープを吊るし、いよいよと言うその時だった。

少し呆(ほう)けて宙を見ていた時、

私の背後に強烈な人の気配が漂った。

初めて味わう人の感覚…

バッと振り返ると、


「あ…あんたは…!」

あの人。ずっと私をつけ回していたあの人。

あの女だ。


その人はじーっと私を凝視するように見ながら、

無表情のまま突っ立っている。

「な、なんなの…」

別に何かしてくるような気配もなく

ただそこに突っ立っている。


そしてわかった。

「もしかするとこの人…幽霊…」

その人の足がぼやけてぼんやり見える。

輪郭がつかめない。するとそのうち…

「(やっぱり…!?)」

その人の足がすうっと消えた。


はじめストーカーかと思っていたが

そんなものじゃなかった…!


それから少しだけ話ができた。

その人は幽霊。すでにこの世を去った人。

聞けば私と同じような目に遭っていたらしいその生前。


そして最初は私を脅かすつもりで

ついてきていたらしいのだ。

幽霊になった醍醐味とも言うべきか。


でもその時の私はこの世の全ての絶望を背負ったように、

憂鬱な顔をして歩いていた。その時に彼女は…


幽霊の女「…そんな暗い顔をしてる人を脅かす事はやっぱりできなかったわ…」

と言う気持ちで、それまでの嗜好が少し変わり、

脅かす心が憎む心に変わったようで、

その憎む心があの悪党たちに向けられたらしい。


自分をその生前にいじめ、人生をめちゃくちゃにした

別の悪党たちは、彼女の恨みによって既にこの世を去っていた。

私をいじめてくれたあいつらがこの世を去ったのは

どうもその延長で、事のついでのように起きた出来事だったらしい。


「……そうだったの。…でもなんでそこまでして私を…」


見ず知らずの人。ただ私を脅かすためだけに

ついてきていたようなその人…いや幽霊がなんで?

と問うと…


幽霊の女「先輩だから」

と一言。ちょっと想定外な答えだった。


でも私に付いた悪党に、この人は恨みを持ってなかった筈。

言ったことは本当なのか…とわかったとき、不意に涙が出て来た。


彼女はずっと足が消えたまま、立って私に向けて話している。

「…座ったら?」と言っても、

「この方が私は楽だから」とやはりずっと座らず立っている。

床にへたり込むように座りながら彼女の話を聞いていた時、

その彼女の姿勢になんだか少し頼もしさを見たような気がした。

でも「この世を去ってからじゃ遅いのかな」とも思えた。


そして彼女は「ついでに良いもの見せてあげる」

と私を連れてその工場を出て、

私がいつも通っていたあの心療内科に一緒にやってきた。

そして「診察を受けてみて。面白いものがそこで見れるわ」

と私に診察を勧め、その通りにしてみると、

彼女がその診察室に不意に現れ、指をパチンと鳴らした。


その瞬間、いつもの調子で私に対応していた

その主治医は、ペンを持ったまま、

まるで気絶するようにデスクに突っ伏した。


女の幽霊「あなたのステータスを、彼に移転させてあげたわ。私はこんなこともできるの。人の力を超えてるからね」


どうやら彼女は、私の中に潜むパニック発作を

その主治医にいきなり味わわせてやったらしい。

おそらく主治医はそれまで

パニックの免疫がまるで無かったのだろう。

初めて経験したその強烈な苦しさに耐えきれず、

苦しむ間もなく気を失ってしまったようなのだ。

そしてその主治医には彼女の姿が見えなかったらしい。


女の幽霊「…あなたの苦しさも相当なものね。…人や何かに頼るより、まず自分が強くなってみなさい。私に出来なかった事、やってみなさいな。先輩として言うわ…」

そう言って彼女はふっと消えた。


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=nazYT0Ixeps

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

先輩の幽霊 天川裕司 @tenkawayuji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ