第43章 虹の門への旅立ち

 満月の夜を迎えるまでの日々、ミアの心は期待と不安で揺れ動いていた。ふわもこ茶屋では、いつも通りのハーブティーを淹れ、村人たちと穏やかな時間を過ごしながらも、彼女の目は時折、遠くを見つめるようになっていた。


 そんなミアの様子を、リリーが心配そうに見守っていた。


「ミア、何かあったの? 最近、少し落ち着きがないみたい」


 ミアは、親友に隠し立てすることはできないと感じ、虹色の手紙のことを打ち明けた。


「まあ! そんな素敵な冒険が待っているなんて!」


 リリーの目が輝いた。


「でも、ミア。あなたがいない間、村はどうなるの?」


 ミアは、その質問に答える準備をしていた。


「リリー、お願いがあるの。私がいない間、茶屋を任せてもいいかしら?」


 リリーは、驚きながらも嬉しそうに頷いた。


「もちろんよ! 私にできることなら何でもするわ」


 そうして、満月の夜を迎えた。夜空は、まるで魔法にかけられたかのように美しく輝いていた。満月の光は、村全体を銀色の霧で包み込み、幻想的な雰囲気を醸し出していた。


 ミアは、モフモフを抱きかかえ、大樫の木に向かって歩き始めた。月明かりに照らされた道は、まるで銀の川のように輝いている。


 大樫の木の下に着くと、そこにはすでに村人たちが集まっていた。モモおばあちゃん、リリー、大工さん、そして子どもたち。みんなが、ミアの旅立ちを見送るために来てくれたのだ。


「みんな……」


 ミアの目に、涙が浮かんだ。


 モモおばあちゃんが前に出て、ミアの手を取った。


「ミアさん、素晴らしい冒険になることを祈っているよ。でも、忘れないでおくれ。あなたの本当の魔法は、この村の人々を思う気持ちにあるのだということを」


 ミアは深く頷いた。


「はい、必ず戻ってきます。そして、新しい魔法でみんなを驚かせますね」


 その時、大樫の木が不思議な輝きを放ち始めた。幹の中央に、虹色に輝く門が現れたのだ。


「行って参ります!」


 ミアが一歩を踏み出したその時、突然リリーが駆け寄ってきた。


「ミア、これを! みんなの想いを込めた護符よ」


 リリーが渡してくれたのは、村人たちの手作りの小さなお守りだった。ミアは大切そうにそれを胸に抱いた。


 ミアが虹色の門に足を踏み入れると、まるで柔らかな風に包まれるような感覚に襲われた。振り返ると、村人たちが手を振っている。その姿が、徐々に霞んでいく。


 そして気がつくと、ミアとモフモフは全く違う風景の中に立っていた。目の前には、七色に輝く美しい谷が広がっている。空には、虹色の鳥たちが優雅に舞い、地面には見たこともない色とりどりの花々が咲き誇っていた。


「ミア、ここが虹の谷なんだね」


 モフモフが、珍しく興奮した様子で言った。


「ええ、本当に美しいわ……」


 ミアが呆然と景色を眺めていると、突然優しい声が聞こえてきた。


「ようこそ、虹の谷へ。ミアさん」


 振り向くと、そこには虹色の長い髪を持つ美しい女性が立っていた。その姿は、まるで谷の風景そのものが人の形を取ったかのようだった。


「私は、虹の谷の守護者、アイリス。あなたの到着を心待ちにしていました」


 ミアは、緊張しながらも丁寧にお辞儀をした。


「は、はじめまして。ミアです」


 アイリスは優しく微笑んだ。


「さあ、これからあなたに虹の谷の魔法を教えましょう。きっと、素晴らしい体験になるはずです」


 ミアは、期待と不安が入り混じる気持ちを抑えながら、アイリスの後についていった。新しい冒険の始まりに、胸が高鳴るのを感じる。


 虹の谷での日々は、きっとミアの人生を大きく変えることだろう。そして、その経験は必ずや、ふわもこ村の人々の幸せにつながるはずだ。


 ミアは、胸に抱いた護符を強く握りしめた。村人たちの想いを胸に、彼女の新たな冒険が今、始まろうとしていた。


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