第42章 虹色の羽根が運ぶ謎めいたメッセージ

 初夏の爽やかな風が、ふわもこ村を優しく包み込んでいた。木々の葉は深緑に色濃く、その間を縫うように飛び交う小鳥たちの姿が、まるで自然が織りなす生きた風景画のようだった。村の空気は、新緑の清々しい香りと、遠くの野原から運ばれてくる花々の甘い芳香が混ざり合い、深呼吸をするだけで心が躍るような不思議な力を秘めていた。


 ミアは、いつものようにふわもこ茶屋の準備に忙しく立ち働いていた。窓から差し込む朝日が、ハーブティーの瓶を照らし、様々な色の光の粒子が舞い踊るような幻想的な光景を作り出している。


「ねえ、モフモフ。今日も良い天気ね」


 モフモフは、窓辺で気持ちよさそうに日向ぼっこをしながら答えた。


「うん、こんな日は何か特別なことが起こりそうだね」


 その言葉が的中するかのように、突然、茶屋の扉が開いた。しかし、そこに人の姿はなく、代わりに一羽の小鳥が舞い込んできた。その鳥は、見たこともないほど美しい虹色の羽を持っていた。


「まあ! なんて綺麗な鳥なの」


 ミアが驚きの声を上げると、小鳥は優雅に旋回して、テーブルの上に降り立った。よく見ると、その嘴に小さな巻物が挟まれている。


「あら、手紙かしら?」


 ミアが恐る恐る手を伸ばすと、小鳥は大人しく巻物を渡した。そして、来た時と同じように優雅に舞い上がり、開いた窓から飛び去っていった。


 残された巻物は、触れただけで温かみを感じる不思議な質感だった。淡い虹色に輝く紙は、まるで生きているかのようにほのかに脈動している。


「ねえ、モフモフ。これ、開けても大丈夫かしら」


 モフモフは、興味深そうにミアの元へ寄ってきた。


「うん、大丈夫そうだよ。でも、慎重に開けたほうがいいかも」


 ミアは深呼吸をして、そっと巻物を開いた。すると、そこから柔らかな光が溢れ出し、文字が宙に浮かび上がり始めた。


「親愛なるミアさまへ」


 文字は、まるで風に乗って踊るように、ゆっくりと空中に現れていく。


「あなたの魔法と優しさは、はるか遠くの私たちの耳にまで届いております。私たちは『虹の谷』に住む魔法使いたち。長年、人々との交流を絶っておりましたが、あなたの存在を知り、再び外の世界とつながる決意をいたしました」


 ミアは、息を呑んで読み進めた。


「つきましては、来る満月の夜、『虹の谷』への門が開きます。あなたをお招きし、私たちの知識と魔法を共有したいと思います。もしこの招待を受けていただけるなら、満月の夜、村の大樫の木のもとでお待ちください」


 文字は最後にキラキラと輝き、そして空気中に溶けるように消えていった。


 ミアは、驚きと興奮で胸が高鳴るのを感じた。


「モフモフ、信じられる? 『虹の谷』の魔法使いたちよ! 伝説でしか聞いたことがないわ」


 モフモフも、珍しく興奮した様子で答えた。


「すごいね、ミア! きっと、あなたの魔法が認められたんだよ」


 ミアは、窓の外を見やった。村はいつも通りの平和な朝を迎えている。しかし、この手紙によって、すべてが変わろうとしているのかもしれない。


「でも、どうしよう。行くべきかしら」


 モフモフは、ミアの膝に乗って優しく言った。


「それは、ミアが決めることだよ。でも、こんなチャンスめったにないと思うな」


 ミアは深く考え込んだ。確かに、これは素晴らしい機会だ。新しい魔法を学び、もっと村の人々を助けられるようになるかもしれない。しかし同時に、未知の世界に足を踏み入れる不安もある。


 しばらく考えた後、ミアは決心した顔で言った。


「行くわ。きっと、素晴らしい経験になるはず」


 その瞬間、不思議なことが起きた。茶屋の中に、淡い虹色の光が満ちていったのだ。それは、まるでミアの決意を祝福しているかのようだった。


「ねえ、モフモフ。これから私たちの冒険が始まるのね」


 モフモフは、嬉しそうに頷いた。


「うん、きっと素敵な冒険になるよ。ミアならきっと大丈夫」


 窓の外では、小鳥たちが楽しそうにさえずっている。その声が、ミアの新たな冒険の始まりを告げているかのようだった。


 ミアは深呼吸をして、来るべき満月の夜に思いを馳せた。未知の世界への期待と不安が入り混じる中、彼女の心には確かな決意が芽生えていた。これからの日々、どんな魔法が待っているのか。その答えを求めて、ミアの新たな物語が始まろうとしていた。

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