第20章 星降る夜の約束

 冬の訪れと共に、ふわもこ村は静かな銀世界に包まれていった。雪化粧をした木々や家々は、まるでおとぎ話の中の風景のよう。ミアは、この美しい季節に何か特別なことをしたいと考えていた。


 ある夜、ミアは窓から夜空を見上げていた。雪雲の切れ間から、きらめく星々が顔を覗かせている。


「ねえ、モフモフ。今夜、特別な星空観察会をしない?」


 モフモフは、ミアの膝の上で丸くなりながら答えた。


「いいね。でも、こんな寒い夜に村人たちは来てくれるかな?」


 ミアは優しく微笑んだ。


「大丈夫よ。みんなを温かく包み込む、特別な魔法を使うわ」


 ミアはすぐに準備に取り掛かった。まず、村人たちに招待状を送る。そして、温かい飲み物と軽食を用意し、特製の魔法の毛布を何枚も編み上げた。


 夜になり、村人たちが少しずつ集まってきた。みんな厚着をして、少し緊張した様子。


「みなさん、今夜は特別な星空観察会へようこそ」


 ミアは村人たちを丘の上へと案内した。そこには、大きな魔法の円が描かれている。


「さあ、この中に入ってください」


 村人たちが円の中に入ると、不思議なことが起こった。寒さが消え、春のような温かさに包まれたのだ。


「わぁ、なんて心地いいの!」


 リリーが驚きの声を上げた。


「これは『星の温もりの魔法』よ。今夜、私たちは星々の優しさに包まれるの」


 ミアの説明に、村人たちは感嘆の声を上げた。


 みんなで寝転がり、夜空を見上げる。澄み切った冬の空に、無数の星が輝いている。ミアは静かに魔法をかけ始めた。すると、星々が少しずつ大きく、明るく見え始めた。


「見て! 星座がはっきり見えるわ」


 子どもたちが興奮気味に叫んだ。


 モモおばあちゃんが、ゆっくりと星座にまつわる昔話を語り始めた。その言葉に合わせるように、星々が線で結ばれ、空に絵を描き出す。


 夜が更けるにつれ、流れ星が頻繁に見られるようになった。


「みんな、願い事をするのよ」


 ミアが優しく声をかけた。


 村人たちは目を閉じ、心の中で願い事を唱える。その瞬間、ミアは特別な魔法をかけた。願い事を込めた星の光が、ゆっくりと地上に降り注ぎ始めたのだ。


「開けてみて。あなたの願いよ」


 村人たちが目を開けると、手のひらに小さな光の玉が乗っている。それは、各々の願いを象徴する色や形をしていた。


「これは……私の願いなの?」


 リリーが感動的な声で尋ねた。


「そうよ。これを大切に持ち帰って。きっと、あなたの願いを叶える力になるわ」


 夜が明けるまで、村人たちは星空の下で過ごした。語り合い、笑い合い、時には涙を流しながら。それは、単なる観察会を超えた、心の交流の時間となった。


 朝日が昇り始める頃、みんなで朝焼けを見送った。


「ミアちゃん、素晴らしい夜をありがとう」


 帰り際、村人たちが口々に感謝の言葉を述べた。


 ミアは深い満足感に包まれながら、モフモフと共に茶屋に戻った。


「ねえ、モフモフ。今夜、私たちはみんなで新しい思い出を作ったのね」


 モフモフはゆっくりと頷いた。


「うん、そして新しい約束も」


 ミアは不思議そうに首をかしげた。


「約束?」


「そう。みんなの願い事は、きっとこの村をもっと素敵にするものばかりだったはずさ。その願いを叶えようとする意志が、これからのふわもこ村を作っていくんだよ」


 ミアは深く頷いた。星空の下で交わされた無言の約束。それは、これからのふわもこ村の未来を照らす、新たな光となるのだろう。

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