第18章 心を届ける出張茶会

 冬の厳しい寒さが続く中、ミアはある日、気がかりなことを思い出した。村には、年老いて外出が難しくなった方々がいるのだ。彼らも、ふわもこ茶屋の温かさを感じてほしい。そう考えたミアは、新しい取り組みを始めることにした。


「モフモフ、出張お茶会サービスを始めてみようと思うの」


 モフモフは興味深そうに首をかしげた。


「出張お茶会?」

「そう。家で過ごすお年寄りのところへ直接行って、お茶会を開くの」


 早速、ミアは準備を始めた。持ち運びできる小さな魔法のケトル、特製のブレンドティー、そして心を和ませる小さなお菓子たち。全てに、ミアの優しい魔法がかけられている。


 最初の訪問先は、村はずれに住む木こりのおじいさんの家だった。足腰が弱くなり、めったに外出しなくなった方だ。


「こんにちは、おじいさん。今日は特別なお茶会にお邪魔しました」


 ミアの訪問に、おじいさんは少し驚いた様子だったが、すぐに柔らかな笑顔を見せた。


「おや、ミアさんか。わざわざすまんねぇ」


 ミアは手際よくテーブルにお茶とお菓子を並べた。部屋中に、ほっこりとした香りが広がる。


「さあ、どうぞ召し上がってください」


 おじいさんが一口飲むと、その表情がみるみる明るくなっていった。


「おや、このお茶は不思議だねぇ。飲むと、体が温まるだけでなく、心まで軽くなる気がする」


 ミアは嬉しそうに微笑んだ。


「ふわもこ茶屋の特製ブレンドです。村の景色や、みんなの笑顔を思い出しながら淹れたんですよ」


 お茶を飲みながら、二人はゆっくりと会話を楽しんだ。おじいさんは、昔の村の様子や自分の若かりし頃の思い出を語り始めた。ミアは熱心に耳を傾けた。


 帰り際、おじいさんは涙ぐみながら言った。


「ありがとう、ミアさん。久しぶりに、こんなに楽しい時間を過ごせたよ」


 この日を皮切りに、ミアの出張お茶会は村中に広がっていった。一人暮らしのおばあちゃん、病気療養中の方、産後で外出が難しいお母さんなど、様々な方のもとを訪れた。


 訪問先では、その人に合わせた特別なお茶を用意した。思い出の味を再現したり、体調を考えてブレンドを調整したり。時には、家族の写真を見ながらお茶を淹れることで、離れて暮らす大切な人の気持ちを感じられるような魔法をかけることもあった。


 ミアの訪問は、単なるお茶会以上の意味を持つようになった。それは、村人たちの心と心を繋ぐ架け橋となったのだ。


 ある日、モモおばあちゃんがミアに言った。


「ミアさん、あなたの出張お茶会のおかげで、村全体が明るくなった気がするわ。一人一人の笑顔が、村中に広がっているのよ」


 ミアは照れくさそうに頬を染めた。


「私は、ただみんなの心に寄り添いたいだけです」


 季節が移り変わり、春の訪れと共に、ミアの出張お茶会を経験した方々が、少しずつ外に出てくるようになった。ふわもこ茶屋には、久しぶりに訪れる懐かしい顔ぶれが増えていった。


「ミアちゃん、あの日のお茶の味が忘れられなくてね。今日はここまで来てみたんだよ」


 そんな言葉を聞くたびに、ミアの心は温かな喜びに包まれた。


 出張お茶会は、ミアにとっても大切な経験となった。村人一人一人の物語に触れ、その想いを受け止めることで、ミアの魔法はより深みを増していった。


 茶屋に戻った夜、ミアは窓から見える村の灯りを眺めながらつぶやいた。


「ねえ、モフモフ。私たちの村は、本当に温かいところね」


 モフモフは、ミアの膝の上で幸せそうに丸くなった。


「うん、みんなの心が繋がっているからね」


 ミアは静かに頷いた。これからも、一杯のお茶に想いを込めて、村人たちの心に寄り添っていこう。そう心に誓った、穏やかな春の夜だった。

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