第16章 思い出の絵本

 冬の訪れと共に、ふわもこ村は静かな白銀の世界に包まれた。雪が積もる景色を眺めながら、ミアはふと思いついた。


「ねえ、モフモフ。私たちの村の四季を描いた絵本を作ってみない?」


 モフモフは興味深そうに耳を動かした。


「それは面白そうだね。でも、ミアは絵を描くのが得意だったっけ?」


 ミアは少し照れくさそうに笑った。


「そうね、私一人では難しいかも。でも、村のみんなで協力すれば素敵な絵本ができると思うの」


 その日から、ミアは村人たちに声をかけ始めた。絵の得意な人、物語を考えるのが上手な人、それぞれの才能を活かして絵本作りに参加してもらう計画だ。


 リリーは花の絵を担当することになった。


「春のページには、色とりどりの花を描きましょう」


 村の大工さんは、木々や建物の絵を引き受けてくれた。


「四季で変わる村の風景を、丁寧に描いていきますよ」


 子どもたちは、動物や昆虫の絵を描くことになった。


「うさぎさんや、ちょうちょさんも描いていい?」


 モモおばあちゃんは、村の昔話を提供してくれることになった。


「昔から伝わる村の物語を、絵本に織り交ぜましょう」


 ミアは全体の構成と、魔法のシーンを担当することにした。彼女の描く魔法の光は、不思議と絵の中で輝きを放つのだ。


 週に一度、みんなで集まって絵本作りを進めた。和気あいあいとした雰囲気の中、思い出話に花が咲く。


「覚えてる? 去年の夏祭りの花火」

「ああ、あの時の花火は特別きれいだったね」


 そんな会話を聞きながら、ミアはふと気づいた。この絵本は単なる四季の記録ではない。村人たちの思い出や、感謝の気持ち、そして未来への希望が詰まった宝物なのだ。


 ページが増えていくにつれ、絵本は驚くほど魔法的な雰囲気を帯びていった。ページをめくると、春の花々の香りがほのかに漂い、夏のページからは風鈴の音が聞こえてくるような錯覚を覚える。


 秋のページでは、紅葉した葉っぱが実際に舞い落ちてくるような錯覚を起こし、冬のページでは、雪の結晶が光を放つように見える。


「これは、みんなの想いが作り出した魔法ね」


 ミアはそっとつぶやいた。


 完成した絵本は、予想以上に素晴らしいものとなった。「ふわもこ村の四季」と名付けられたその本は、村の図書館に大切に保管されることになった。


 披露会の日、村人たちが集まって絵本を眺めた。


「わぁ、私の描いた花がこんなにきれいに載ってる!」


 リリーが嬉しそうに声を上げた。


「ほら、ここに僕たちが描いたうさぎさんがいるよ!」子どもたちも興奮気味だ。


 ページをめくるたびに、懐かしい思い出が蘇る。笑い声や感動の声が、部屋中に響き渡った。


 最後のページには、村人全員で撮った写真が載せられていた。その下には、こんな言葉が添えられている。


「ふわもこ村は、私たちみんなの心がつくりだす魔法の場所。これからも、みんなで素敵な思い出を紡いでいきましょう」


 その言葉を読んで、多くの村人の目に涙が光った。


 ミアは静かに微笑んだ。この絵本は、単なる紙と絵の具でできたものではない。村人たちの心と、ふわもこ村の魔法が詰まった、かけがえのない宝物なのだ。


 これからも、新しいページが加わっていくかもしれない。そして、何年、何十年と経っても、この絵本を開けば、今日の温かな気持ちを思い出すことができるだろう。


 雪の降る窓の外を眺めながら、ミアは心の中でつぶやいた。


「ありがとう、みんな。これからも、素敵な物語を一緒に作っていきましょう」

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