転生したらモフモフの相棒ができました! ~ふわもこ村癒し系魔法使いのゆるふわライフ~

藍埜佑(あいのたすく)

第1章 ふわもこ村への転生

 薄紫色の光に包まれ、ミアの意識が徐々に浮上してきた。まぶたを開けると、そこは見知らぬ場所だった。柔らかな陽光が差し込む木漏れ日の中、ミアは草原に寝ころんでいた。


「ここは……?」


 周囲を見回すと、なだらかな丘陵地帯が広がり、遠くには鮮やかな緑の森が見える。空気は驚くほど清浄で、かすかに甘い花の香りが漂っていた。


 ミアはゆっくりと体を起こし、自分の姿を確認した。着ているのは、以前働いていた会社のオフィスウェアではなく、淡いクリーム色のワンピース。柔らかな生地が肌に心地よく馴染む。


「まさか、異世界……?」


 記憶を辿ると、過労で倒れたところまでは覚えている。その後のことは曖昧だが、どうやら別の世界に来てしまったようだ。不思議なことに、パニックにはならなかった。むしろ、心が穏やかになっていくのを感じる。


 ふと、遠くに小さな村が見えた。なんとなく惹かれるように、ミアはその方向へ歩き出した。


 村に近づくにつれ、のどかな雰囲気が漂ってくる。石畳の道、木々に囲まれた可愛らしい家々、そして村の中心部には大きな風車が立っていた。風車は魔法のようにゆっくりと回っている。


「わぁ……素敵」


 思わず声が漏れる。まるで絵本から抜け出してきたような、夢のような光景だった。


 村の入り口に立つと、温かな風が吹き抜けた。それは単なる風ではなく、優しく包み込むような不思議な力を感じる。まるで「ようこそ」と迎え入れられているかのようだ。


 村の中に一歩踏み入れると、通りかかった村人が笑顔で声をかけてきた。


「あら、新しい方? ようこそふわもこ村へ!」


 優しげな中年の女性だ。ミアは少し戸惑いながらも、微笑み返した。


「は、はい。あの、ここはふわもこ村というんですね」


「そうよ。きっと『ゆるゆる結界』に導かれてきたのね。この村は、疲れた心を癒す不思議な力に満ちているの」


 女性は親切に説明してくれた。ゆるゆる結界とやらが、さっきの不思議な風の正体なのだろう。


「それじゃあ、まずはモモおばあちゃんのところへ行ってみなさい。村の長老よ。きっと良い助言をくれるわ」


 女性に教えられた道を進んでいくと、可愛らしいコテージが見えてきた。周囲には色とりどりの花が咲き乱れ、甘い香りが漂う。


 ミアが門をくぐろうとしたその時、ふわふわした白い塊がぶつかってきた。


「きゃっ!」


 驚いて目を凝らすと、それは羊だった。しかし、普通の羊とは違う。まるで雲のようなふわふわした毛並みで、大きな瞳がキラキラと輝いている。


「ごめんなさい。驚かせちゃったかな?」


 ミアは目を丸くした。なんと、羊がテレパシーで話しかけてきたのだ。


「わ、私の方こそごめんなさい。あの、あなたは……?」


「僕はモフモフ。この村に住んでる魔法の羊さ。君は新しく来た人だね?」


「はい。ミアと言います。さっき目覚めたら、ここにいて……」


「なるほど。また転生者かぁ。ここしばらく来てなかったんだよね」


 モフモフは嬉しそうに尻尾を振った。


「よし、決めた! 僕、君のところに住むよ。いいでしょ?」


「え? でも、私まだ家も決まってないし……」


「大丈夫だよ。この村には『転生者の家』があるんだ。君のために用意されてるはずさ」


 モフモフに導かれるまま、ミアは村の奥へと進んでいった。小さな丘の上に立つ、こじんまりとした木造の家。窓辺には可愛らしい花が咲いている。


「ほら、ここだよ」


 扉に触れると、魔法のように開いた。中に入ると、そこには必要最小限の家具が揃っていた。テーブル、椅子、ベッド、そして小さなキッチン。全てが優しい色合いで統一されている。


「わぁ……本当に素敵」


 ミアは思わず声を上げた。都会の狭いアパートとは比べものにならない、温かみのある空間だった。


「ね、いいでしょ? ここが君の新しい家だよ」


 モフモフが嬉しそうに言う。ミアは深呼吸をして、部屋の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


「ありがとう、モフモフ。これからよろしくね」


 窓の外には、夕暮れの柔らかな光が差し込んでいた。新しい生活の始まりを感じさせる、穏やかな風景。ミアの胸に、不思議な高揚感が広がっていった。

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