真夜中の戦闘

 夜が深くなってきた頃、兵士の声が聞こえる


「魔物だ!」

「ッ!?」


 その声を聞いて直ぐに休憩所から飛び出して兵士の元へ向かう

 クレマも後を追ってきている


「勇者様!」

「状況!」

「山の魔物が現れました。数は不明です、今他兵士が交戦中です」


 魔力銃を発砲している音が聞こえる

 音がする方を見ると光で照らされているのが見える


 ……あそこか


「場所は……」

「見えてる」


 戦闘音がする方へ駆け出す

 報告の受け取りに時間は掛けたくない

 後から兵士達が追ってくる


「速っ」

「早いな」

「あれ誰?」

「ユメ様だ」

「ユメ様って山の魔物と戦ってた人だよね!? 休んでないの!?」

「勇者様に続け!」


 前方に戦闘している兵士を目視する

 光で照らされた魔物に発砲している

 空中に光の玉が浮いていて周囲を照らしている


「くっそ、硬ぇ」

「他の仲間が合流するまで持たせろ!」

「撃て!」

「他にもいるかもしれない警戒はしろよ!」

「発砲辞め! 私が出る!」


 私は叫ぶ

 発砲中は接近しようにも出来ない

 魔力弾の流れ弾になんて当たりたくない

 私の声を聞いた兵士達はすぐに発砲を辞める


「起動!」


 腕輪を大剣の形に変えて魔物に突っ込む


 ……照らされてるの有難い。よく見える


 明るい光がある事で魔物の動きがよく見える

 真正面から突っ込み魔物の攻撃を回避して懐に入って大剣を振るい真っ二つに両断する


「おぉ!」

「すげぇ!」

「流石勇者様」


 兵士達が歓喜の声を上げる


「静かに!」


 私は兵士を黙らせる

 兵士達はビクッと身を震わせて口を閉じる

 耳を澄ませる

 報告では敵の数は不明、足音を聞く

 暗闇に紛れても音や匂いは隠せない


「前方、2体、光を前方に!」

「は、はい! 照らします!」


 兵士の1人が魔法を使う

 指示通り私の前方を照らす、暗闇に紛れていた魔物の姿が照らされる

 地を蹴り突っ込み素早く切り掛る

 攻撃を避けて腕を切り落とし首を貫く

 引き抜いて力を込めて袈裟斬りにする

 倒し終えてすぐに耳を澄ませて残りが居るか確認する

 後ろから兵士達の足音以外は聞こえない


 ……特に呼吸音も聞こえないし匂いもしない。一先ず終わりかな


 確認をし終えて兵士達の元へ向かう


「勇者様、助かりました」

「一先ずは倒し終えたけど警戒は続けて」

「はい」

「勇者様はどうしますか?」

「充分休んだし私も警戒に加わる。魔物を見つけたらすぐに呼んで」


 魔物が出た以上、戻るより警戒に加わった方が良い

 警戒する人数が多い程、見逃すリスクが減る


「分かりました。合図として光を上空に飛ばします」

「分かった」


 ……光か分かり易い


 兵士達と別れて警戒を始める

 少し経ってクレマが追い付き合流する


「魔物は倒し終えましたか」

「倒し終えたよ。山の魔物が3体」

「昼間の影響でしょうか?」

「山の魔物が来るのは珍しい?」

「ほぼ来ません」

「なら影響だねぇ。おっ、あれは氷星切歌」


 勇者の1人、氷星切歌が兵士に合流しているのを丁度見かけた

 他の勇者は寝ているのか休んでいるのか見つからない


「彼女なら勝てるかな?」


 勇者ランキング1位、強力な氷の力を行使出来る


「魔力の鎧を突破出来る攻撃があれば」

「氷の棘と氷の槍ならワンチャン?」

「強力ではありますが剣で切れていたのでどうでしょう」

「あぁ、そうか……そうなると微妙だねぇ」


 名を出した2つは私の剣で捌き切れた

 そう考えると強いは強いが山の魔物に致命傷を与える程となるかは微妙に思える


「最も切歌様は固有能力で援護出来ますから」

「固有能力が射程あるもんねぇ。私も強い固有能力欲しかった」


 ほぼ役に立たない力、子供を見せたり暇潰しに使うくらいしか用途が無い

 良くも悪くもシャボン玉を形成している成分は無害


「固有能力は所有者自身を写していると聞いた事があります」

「所有者自身……シャボン玉が?」

「別の使い方があるのかもしれませんね」


 固有能力を使うがシャボン玉が出てくるだけ


 ……特に弄れそうなの無いなぁ


 シャボン玉に触れると壊れて消える


「なんかあればいいなぁ」

「ですね」


 話ながらも警戒を続ける

 暗闇で遠くは見えない

 音はせず生物の臭いもしない


 ……あの3体は偶然?


 そう思っていると光が空中に放たれる

 それも2箇所ほぼ同時に光が上がる


 ……2箇所!?


 私は焦る

 ほぼ同時に魔物を確認したという事

 私は1人、光が上がった位置は離れている

 同時には向かえない


「2箇所! どうしますか?」


 ……クレマと別れるか?


「……クレマ魔力は?」

「回復道具を使ったので撃てます」


 クレマは魔力銃を構える


「……複数体居た時ように近い方から潰してく!」

「はい」


 移動しようとすると草を掻き分けるような音がする

 音の方を向くと暗闇の中で何かが動くのを確認する

 大きい、人では無い


「匂いもない、音もしなかった。どうやって潜んでいた……」

「魔物!?」


 大剣を構える

 音からして1体、しかし、他に潜んでいる可能性がある


 ……援護に遅れる


 援護に向かうには倒してからになる

 その分遅くなる


「クレマは向かって! 倒してから向かう」


 2人とも足止めを食らうのは悪手

 クレマだけは先に向かわせる


「わかりました。ご武運を」


 すぐにクレマは光が上がった方へ向かう


「そっちもね」


 兵士側に切歌が居るからすぐに押し切られる事は無いと信じたい

 地を蹴り魔物に向かって突っ込む

 兵士達の元に現れた魔物の数は分からない

 時間を掛けられない

 魔物の攻撃を躱して胴体を両断する

 背後から風切り音が聞こえ咄嗟にしゃがみ大剣を振るう

 手応えは無い、外したと理解する


「何者だ?」


 魔物とは違う


「流石勇者様」


 拍手の音と共に男性の声がする

 真っ黒な服を身に付けているようで上手く見えない


 ……人間


「人間が何故?」

「うーん? ちょっと急に頼まれてね」

「敵?」

「そ、敵」

「なら死ね」


 素早く接近する

 相手は剣を持っている

 剣に月の光が反射している為位置が分かる

 大剣を振るって攻撃を仕掛ける


 ……情報の為に生かしたいが他に仲間が居ると考えたら


 見て分かる、強いと

 このレベルの人間が他にも居るとなると兵士やクレマ、切歌が危険

 特に切歌が危険だろう、勇者と分かって襲いかかってきてる


 ……勇者を殺しに来た?


 振るった大剣は余裕で避けられて反撃で素早く突きを繰り出してくる

 剣は見えるが黒い服を来ているせいで相手の体が見えないせいで距離感が掴みづらい

 首を動かして突きを避ける

 敵は振り切った状態で手首を動かして軽く剣を振るってくる

 咄嗟にしゃがんで回避して足で前に出てる足に足払いを仕掛ける

 敵は片足を上げて避け剣先をこちらに向ける


「終わり」


 鋭く突きを繰り出す、狙いは顔面

 片手を地面に付けて片手を軸に体を支えて突きを避けつつ剣を持つ腕を勢いよく下から蹴り上げる


 ……この辺!


「ぐっ……強いとは聞いてたけど怪物か君は」


 蹴られた腕を押えているようだ

 両手を地面に付けて逆立ちして再び蹴りを振るうが避けられる

 手の力で跳ねて足で着地する


「勇者と言うのは平和な世界から来たんじゃないのか?」

「平和?」

「ニホンって聞いたけど」

「さぁ、どうだろ」


 地面に置いていた大剣を拾い構える


「まぁでも対人はこっちに分がある」


 剣を持つ手を変えて鋭い突きを繰り出してくる

 大剣で防ぐ

 すぐに引いて仕掛けてくる、何とか攻撃を大剣で受け切る


 ……速い


 突きだけでなく切り上げなども混ぜてくる

 上手く当てられれば叩き切れるが引くのも早い


「なんでそう思う?」


 強さを聞いていると言う事はその話した人物は模擬戦かロアベア戦を見ているという事になる

 模擬戦を見て強いと言っていたなら分があると自信を持つのは少し違和感がある


「重過ぎる大剣は対人には向かない、大振りだしね」


 確かに魔物用に頼んだ武器で対人は想定していない


 ……成程、武器か


「確かに」

「それに俺は対人特化だから」


 早く振るおうとしても重いせいで早い攻撃の中でも遅い部類になってしまう

 それにこの敵は攻撃を避ける上素早い攻撃が得意、突きが得意なのか踏み込まないようにしているのか

 踏み込んで大剣を振るう

 互いに攻撃を避けて拮抗する


 ……これは長期戦かな


 体力が減り動きが鈍った方が攻め落とされる

 長期戦を覚悟する


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