第5話

 屋敷に戻ると着替えをする時間も惜しんで、暗室にこもって写真の現像を行った。


「フフフ……見ていなさいよフリッツ。この写真を突きつけて、浮気したことを死ぬほど後悔させてやるんだから……」


ピンセットでつまみ上げた写真を取り上げ、私は不敵? な笑みを浮かべた――



****



――翌朝


カーテンの隙間から太陽が差し込み、顔を直撃した。


「う〜ん……眩しい……」


ゴロリと太陽とは反対側に背を向け……すぐに我に返った。


「そうだわ! 写真!」


ガバッとベッドの上から起き上がると、手早く着替えを済ませて廊下を飛び出したところでフットマンに出会った。


「おはようございます、ロッテ様。そんなに急がれて、一体何処へ行かれるのですか? もうすぐ朝食のお時間ですが」


「暗室よ! 先に食べておいてと家族には伝えておいて!」


「は? はい、伝えておきます」


「よろしくね!」


怪訝そうに首を傾げるフットマンを残し、駆け足で現像室へ向った――



 現像室に到着すると、すぐにロープに干してある写真を確認することにした。


「どれどれ……写真は乾いているかな〜よし、大丈夫そうね」


早速ロープから写真を外すと画像をチェックする。


「上出来上出来。ばっちり2人の浮気現場が映っている。見てなさい、フリッツ……この写真を使って脅迫し、浮気したことを死ぬほど後悔させてやるんだから」


今回撮影した写真は10枚。

すべての写真を封筒に大切にしまうと、ニヤリと笑った――




 ダイニングルームへ行くと家族は食後のお茶を飲んでいた。


私は1人、食事をしていると弟デニスが尋ねてきた。


「お姉様、写真はうまく撮れたのですか?」


「ええ、ばっちりよ。私ったら、どんどん写真を撮る技術が上がってきたみたい。卒業したらプロのカメラマンになろうかしら?」


すると新聞を読んでいた父が顔を上げた。


「ロッテ、また写真を撮ったのか?」


「はい、お父様」


「全く、あなたって子は……かりにも女性なのだから、もっと他の物を嗜んだら? 例えば刺繍とか……」


母が口をとがらせる。

小さなときから男の子のように活発な私を母は良く思っていなかった。


「人には向き不向きというのがあるではありませんか。私の刺繍がどれほど下手かはご存知ですよね?」


「そ、それは確かに……」


「お姉様は刺繍をすると生地ではなく、自分の指を刺していますよね」


デニスはおかしそうに笑う。


「まぁ、最近は職業婦人として活躍している女性たちもいるからな。それで、どんな写真を撮ったのだ?」


父が写真に興味を持ってきた。


「ええ、ここに持参してあります。どうぞ、御覧になって下さい」


ポケットから素早く封筒を取り出すと給仕のフットマンが受取り、父に手渡した。


「どれどれ、我が娘は今回どの様な写真を撮ったのだろう? 前回は美しい遺跡の写真だったが……なぬっ!!」


写真を目にした途端、父の顔色が変わる。


「あら、何が映っているの? 私にも見せて頂戴」


「僕にも見せて下さい!」


野次馬根性の母と兄も父の元へ集まり、写真を見て目を見開く。


「まぁ!! フリッツじゃないの!」


「フリッツ兄様だ……」


「ロッテ! この女性は一体誰なのだ? いつ撮影したのだ!」


父が興奮気味に尋ねてきた。


「その写真は、昨日私が2人を尾行して撮影しました。相手の女性は男爵令嬢です。これは立派な浮気の証拠写真ですよ」


「う、浮気だと! フリッツめ……婚約者がいながら、堂々と……」


父の写真を持つ手が震える。


「そうそう、ついでに言うとフリッツはひょっとするとその女性を卒業パーティーのパートナーにするかもしれません」


「何ですって? それではまだパートナーに誘われていないということなの?」


「ええ……そうですね」


母の質問に、私は重々しく頷く。


「一体どういうことだ……我々の顔に泥を塗るつもりか? こうなったら直接メンゲル家に……」


「お待ち下さい、お父様」


憤る父を冷静に止める。


「どうした? ロッテ」


「その役目、私にやらせて下さい。何しろ証拠写真を撮ったのは他でもない、この私ですから」


「……どうするつもりだ?」


「私に考えがありますから」


私はニコリと笑い、朝食を再開した――

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