第4話
2人は私に尾行されていることも気づかず、手を繋いで仲よさげに話しをしながら歩いている。
「フリッツめ……婚約者がいながら、よくも堂々と町中でメラニーとデートをしてくれるわね」
どうやら今日はお祭りで、いつもの噴水広場には様々な屋台が立ち並んでいる。多くの人々が楽しそうに広場を散策し、1人で行動しているのは私だけのようだ。
人だかりが多いので尾行にバレることはないけれども、一度見失えば捜すのは困難だろう。
「絶対に見失わないようにしなくちゃ……」
自分に言い聞かせ、私は人混みをかき分けるように2人の後を追った。
「あ、立ち止まったわ! 一体何をするつもりかしら……あら? 何か買うつもりね?」
足を止めたのはジューススタンドの屋台だった。
フリッツは男性店員に何か話しかけると、グラスに注がれたオレンジ色の液体……恐らくオレンジジュースを2つ手渡してきた。
フリッツとメラニーはグラスを受け取ると、傍のベンチに座って美味しそうに飲んでいる。
「く〜っ! 美味しそうにジュースを飲んでいるわね……私だって喉が乾いているのに……そうだわ! 今がシャッターチャンスじゃない!」
首から下げていたカメラを構え、そろそろと人混みに紛れながら2人に近づくと木の陰からパシャリと1枚撮影した。
「よし、証拠写真を1枚撮ったわ。この調子でジャンジャン撮っていくわよ!」
2人はジュースを飲み終わると、グラスを店員に返却して再び手を繋いで歩き出した。
今度は一体何処へ行くつもりなのだろう?
私は引き続き尾行を続けた。
その後もフリッツとメラニーのデートは続いた。
広場にいた絵描きの前で似顔絵を交互に描いてもらって交換したり、大道芸を楽しそうに見物もしたり。
サンドイッチの屋台で2人が美味しそうに食事をしている姿を、私は空きっ腹の状態で撮影したり……。
公園の池でボートに乗る2人を望遠レンズをセットしてこっそり撮影も行った。
この頃になると、もはや尾行をしているのか2人のデートの記念写真を撮っているのか自分でも分からなくなっていた。
そして、太陽がオレンジ色に染まる頃……2人は手を繋いで辻馬車に乗り込んだところで尾行は終了となった。
2人を乗せた辻馬車が遠ざかっていく様子を見つめながら、私はほくそ笑んだ。
「フッフッフッ……見ていなさいよ。フリッツ、メラニー。あなた達のデート現場をバッチリ撮影させてもらったわ。もう、これで浮気の言い逃れなんかさせないんだから!」
ただ欲を言えば、もっと決定的な現場を撮影したかった。
例えば抱き合っている現場とか、キスしている現場とか撮れれば最高だったのに。
「う〜ん……でもこれでも十分よね。さて、私も帰りましょう!」
私は意気揚々と辻馬車乗場へ足を向けた。
家に帰ったら、早速写真の現像作業に入ろう。そして浮気の証拠写真を見せつけてフリッツに謝罪させるのだ。
「……どうやって謝罪させようかしら。地べたに這いつくばらせて謝罪させる? ついでに『もう二度と浮気は致しません』って反省文を書かせてもいいかもね。そうだわ、メラニーに慰謝料を要求するのもありよね? 何しろ人の婚約者に手を出したのだから」
この時の私はフリッツとメラニーに謝罪させることで頭が一杯だった。
まさか、私の行動が予想外の展開になるとは思いもせずに――
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