7.お風呂上がりは2割増!
「レオ様!! こっ、これは違うんです!! ただの兄弟愛でして!!」
「うん。……うん? うん、2人の仲が良いのはわかってるよ?」
いつもの笑顔ながら一瞬怪訝そうな疑問符を挟んだレオは、借り出されたシルクの夜着を身に纏うとほかほかと満足げにその美しい金髪を揺らして室内へと踏み入れた。
「お先にお湯をありがとう。……で、何を面白そうなことしてるんだい?」
にこにこと良い香りを漂わせて近づいてくるレオの言葉に、リーゼとアッシュは束の間見つめ合うと、こくりとどちらからともなく頷いて互いに平静を装いだす。
「な、何でもないんです!! 少し暑くて取り乱してしまって!!」
「ほ、ホントにこいつはお子さまだからよ!?」
「うん、2人とも全然説明になってないかな?」
「「えっ!?」」
至極真っ当なレオの突っ込みに全く同じ反応をする挙動不審な兄妹に、ついにレオが堪えきれなくなって吹き出した。
「ははっ! 少し見ない間に2人していったいどうしたの。とりあえずアッシュは早くお湯を貰っておいでよ、後が詰まってるでしょ。リーゼちゃんはまだ寝ないようなら、せっかくだしもう少し僕とココで話さない?」
そう言ってゆっくりとベッドに腰掛けているリーゼの右隣に座ると、隙だらけの湯上がり姿で微笑むレオの色香に、不覚にもリーゼの胸がドキリと鳴る。
「もっ、もちろんです!!」
「お、おう、じゃぁ俺は身体を流して来るからな! まぁゆっくりしてろよ! あ、でも変なこと考えるんじゃねぇぞ!?」
「はいはい」
「心配しなくても大丈夫ですよ、お兄様」
調子が戻りきらないのか、しどろもどろになりながらも必死な表情でビシリと釘を刺すアッシュに、レオとリーゼは苦笑する。
ーーレオ様はお兄様にゾッコンなのに、お2人を応援する私を警戒せずにはいられないなんて可愛いんだからぁ。もう、そんな所が誘い受けなんですよっ!! きゃー!!
なんて心の中でリーゼが考えていることなど知ってか知らずか、アッシュはバタバタと慌ただしく部屋を出ていった。一方で部屋に取り残された年頃の男女の間には、束の間奇妙な沈黙が降りる。
あれ、レオ様と2人の時ってこんな感じだったかしら? なんて、邪な妄想をしていた手前若干の居心地悪さを感じるリーゼ。
頭の中がバレている訳がないとは思いつつ、そろりと横に腰掛けるレオを見上げれば、翠の瞳とばちっと音が鳴りそうな程に目が合って固まった。
「どうかした?」
見れば見るほどに美しい容姿を彩る翠の瞳は優しく笑んで、普段はきちっとまとめている金髪は緩く乱れてこぼれ落ちる。
男性にしては白い肌はまるで陶器のようにツルツルで、レオが無意識に垂れ流す色気の濃度に間近で当てられてクラクラした。
「あ、あっ! そう言えば、レオ様のお姉様はお元気ですか!? 嫁ぎ先が大変だとお伺いしたような……っ」
「あぁ、姉さんね。最初は何かと大変だったみたいだけど、最近はうまくやれてるらしいよ」
「それは良かったです……っ!! お姉様はお優しいですから、大丈夫だろうとは思っていたんですが、お話しを聞いて心配していたんです……っ!」
レオから更に歳が離れているため、レオに比べれば遊ぶ頻度は少なかったけれど、幼いながら遊んでもらった記憶はよく覚えている。
レオに似て賢くて美しく優しい、リーゼにとって理想のお姉さんの象徴のような人だった。
「嫁ぎ先の先輩夫人と趣味が合って仲良くなれたらしいよ? ……なんでも、最近流行ってる女性向け娯楽? で日々盛り上がってるんだってーー」
「ぶふっ!!」
けろっとしながら説明をしてくれるレオの会話内容に、リーゼは顔を背けて吹き出した。
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