6.事後現場は最高です! ※迫る程度のBL要素ありますご注意ください(ただしギャグです)

「お前はだから何で俺の部屋にいるんだよ」


「あら別にいいじゃないですか。大丈夫ですよ、私は今更何があったって驚きませんから」


「イヤだから何の話だよ……」


 大層いやそうな顔のアッシュに負けじと、リーゼはふふんと謎に得意げな表情でアッシュの自室に居座っていた。


 食事を終えて、先を譲ろうと思った湯浴みをレオに全力で譲られてしまい、リーゼは石鹸のいい香りを漂わせてちょこんとアッシュのベッドに腰掛ける。


 レオは2番風呂に向かったため、部屋にはアッシュと湯上がりのリーゼだけだった。


 手持ち無沙汰に、リーゼはその白い素足をぶらぶらさせる。


「おい、はしたないって母さんにまた叱られるぞ」


「アッシュお兄様ってほんとお母様がいないとお母様みたい」


「喧嘩売ってんのか愚妹」


 ピクピクとこめかみを震わせて半目になるアッシュに舌を出したリーゼは、そんなことよりと朝方に衝撃の光景を目撃した事件現場ならぬ事後現場をドキドキと眺めやる。


 粗野なくせに意外と几帳面なアッシュには珍しく、いくらか乱れた風な机上が想像力逞しいリーゼの妄想を再びツンツンと掻き立てるのは簡単だった。


 トンと机に突かれた細い指先は、その両腕に挟んだ体躯を逃さない。


「なっ、き、急に何だよ……っ」


 背後の机に追い詰められたアッシュが逃げ場を失って軽く机に腰を掛ければ、レオが不敵な笑みでその身体を更に寄せる。


 鼻先がつきそうなほどに近づいた両者の顔は、窓から溢れる光に負けないほどにキラキラと煌めいた。


「……どうしたの? アッシュ。顔が真っ赤だけど」


「ばっ!! お前が無駄に近づいてくるからだろうが!!」


 ギャァと騒ぐアッシュにふっと妖艶に笑んだレオがそっと唇を寄せれば、条件反射でその瞳を強く瞑ったアッシュが唇を引き結ぶ。


 しかして予感していた感触は訪れず、しばしの後にそろりと目を開けるアッシュの目の前にはレオの翠の瞳が。


「………………っっ!!」


 言葉にならない真っ赤な顔で動揺を隠せないアッシュにふふと笑うレオ。


「……どうして欲しいか言ってみて」


「はぁっ!? んなもん言うわけ……っっ!!!!」


 重なる影が離れれば、真っ赤な顔で涙目のアッシュお兄様の出来上がり。


「……何か言いたいことは?」


 ニヤリと黒い笑みを浮かべるレオに対して言葉を失うアッシュはただふるふると震えるだけ。


「…………うっ! うるせ@%$&#


「ぎゃあぁぁぁあぁぁぁっっっ!!!!!」


「うわあぁぁぁぁぁっっ!!??」


 突如として背後で顔を覆いながら大声で叫び声を上げるリーゼに、度肝を抜かれて悲鳴を上げるアッシュ。


「何だなんだなんなんだっ!!? お前ホントに様子がおかしいぞ!! どうした!?」


 あまりに驚きすぎたのかドキドキとした心臓を落ち着けるように胸元を押さえて、とんでもない形相のアッシュに言い訳をする余裕もリーゼにはなかった。


「ダメだわ!! 心臓に悪すぎる!! どうすればいいの!?」


「いや俺のセリフだわ!! 何なんだよお前は……っ!!!」


 この世の終わりかとでも突っ込みたくなる程に深刻な顔をして自身の両掌を見下ろすリーゼに、アッシュは未だ驚いた猫のように丸い瞳で警戒心を露わに怒鳴りつける。


「あぁっ!! 苦しい! この気持ちは何!? 胸がモヤモヤうずうずしてどうしようもないっ!!! 顔はにやけるし!! どうにかしてアッシュお兄様!!!」


「いやもう全くわからんが、とりあえずお前がヤバいのは知ってたが改めてそのヤバさを再確認してる気分だわ……」


 1人舞台ですかと突っ込みたくなるくらいに様子のおかしい自らの妹。


 バッと鬼気迫る表情で見つめられてドン引きした様子のアッシュは、ビクリと身体を震わすとゲンナリとした表情でジリジリとリーゼから距離をとった。


「はぁっ……もうだめだわ。もう昔には戻れない。だって知ってしまったんだもの……っ」


 うぅっ!!と胸を押さえて苦しそうに呻くリーゼの様子を、怪訝そうな表情でぼんやりと眺めていたアッシュはハッとしてその動きを止める。


「お前……まさか……っ!?」


「う……っ……そうですよね、隠すなんて土台無理な話です。だってアッシュお兄様も私も顔に出るんですもの!!」


「さりげなく俺をお前と同列にして一緒にディスるのをやめろ」


 うぅと涙を溢すリーゼに、スンと表情を消したアッシュが場違いなほど冷静に突っ込む。


「ーーけど、そうか……まぁ、そうだよな、無理もねぇよな。相手はあのレオだからな」


「うぅっ、そうなんですっ!! もうあの姿を見れば見るほど考えないなんてできなくて……っ!!」


「そうだよな、そこはわかるぜ。仕方ねぇよ」


「アッシュお兄様……っ!!!」


「しょうがねぇな、馬鹿妹……っ!!」


「はいはーい。何なにこの面白そうな感じー?」


 涙を溢すリーゼの手を取って神妙な面持ちのアッシュ。


 そんな謎に感動的な空気を問答無用でぶち割ったのは、アッシュの部屋の入り口にもたれ掛かったていた、湯上がりほっこりなレオだったーー。





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