第0話第4章
午後になりELM社から翌日以降の燈⼈リストが送られてきた。事務所の打ち合わせ机の前、ソファに座りながら支給されたノートタイプライターでリストを即座に確認するエレンキスだったが、これまでのリストとの差異に気づく。
「いつもは1体、多くても2体だったのに5体も……?」
燈⼈の数は、すなわち剪魂業務で回収する霊魂の数に等しい。ELM社が担当する現世アジア地域極東エリアの中心部にしては多い数字が記されていた。
「万一のことがないように準備をしておかないと」
口元に指を当てつつそう自問するエレンキスであったが、突如飛来したものに思考を打ち消される。
「どーん!」
「うぎゃ!」
ノートタイプライターの画面に集中していたエレンキスの右サイドから、勢いよく飛び込みソファに座り込むロンであった。
「まーた辛気臭い顔してるー。夜までどうせ暇なんだからゲームでもどーすか?」
「仕事中でしょうが。……事務所の掃除を頼んだはずですけれど」
暇を持て余したロンの職務中のスキンシップにも慣れてはきたものの、割り振った業務タスクの確認は怠らない。
「とっくに終わって暇で暇でー」
エレンキスの横でスマホを取り出して何やら野球のゲームをし始めたロンを横目に見てから、事務所内をくるりと見回す。
もともと古臭い雑居ビルでそこまで広くない事務所。ざっと見たところゴミは見当たらないが、よくよく隅に目を凝らすと小さな埃は落ちていた。
(指摘すると、小姑みたいとか言うんでしょうね)
もはや諦観したエレンキスは、心の中で独り言ちてからノートタイプライターの画面をロンに見えるように置き直す。
「燈⼈リストが届きました。いつもよりも多く観測された模様です。しっかりと対策して剪魂業務に当たらなければいけません」
淡々と業務への心がけについてロンに問うエレンキスだったが、その内容は自らに言い聞かせるものだった。
「5体ねぇ。まあ合体して襲ってこなきゃ楽勝でしょ」
「合体って……」
スマホゲームをしながらそう答えるロンに呆れつつ、自身がしっかりしなければという決意を新たにするエレンキスであった。
剪魂業務当日。すっかり陽が暮れた五依事務所から準備を整えたエレンキスが出発する。業務先である現世東京・渋谷の地へ向かうべく事務所を出た向かいの扉に自らの銀の鍵を入れ込む。古びた磨りガラスに光が宿り、そっと扉を開くとその先はロンに説教をしていた渋谷の裏路地へと繋がっていた。
まとめ上げた5体の燈⼈に関する資料の紙を手にしつつ、扉をまたいで渋谷へと足を踏み入れる。と、その背後から「ちょっとー! 置いてかないでくださいよー!」とロンの声。
「はぁ……珍しくおとなしく事務所にいたと思ったら。足手まといにだけはならないでくださいね」
「あー! まってよー」
そそくさと歩みを進めるエレンキスを追いかけて、ロンも扉をまたいで夜の渋谷の路地裏へ向かうのだった。
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