幕間

緊急搬送されてきた少年がいる。

今、目の前に。


見つかったときは血まみれだった。

けれども、その血は彼のものではなかった。

彼の周辺には、肉塊が落ちていた。

これも、彼のもではない。

彼の下敷きになった人のものだった。

彼は、手を握っていた、その人の。

しっかりと。

意識がないのに、力が込められて、離せないくらい、ものすごい力で。

握っていた。

その人の左手だけは残っていた。

そのままだった。

それ以外は原型もとどめていない。

血がついていたけれど、白くて綺麗で、女性の手のように見えた。

…そこから考えられたのは、心中。

安直すぎるのかもしれないが。


彼は、生きている。

身体のいろんな骨が骨折していた。

けれど、命に別状は無い。

無いのだ。


心中は、失敗してしまったようだ。

可哀想に。

目の前にあった希望が、次に見たときには絶望にかわっているのだ。

この子は、どんな表情をするだろうか。

絶望か、悲しみか、呆れか、諦めか、安心か、無か。

どんな色で、顔を濁らせるだろうか。


白銀医師しろがねせんせい


扉が開く音と人の気配、足音、そのあとに聞こえた音声が、耳を通った。

ふと振り替えると、部下が一人、立っていた。

銀髪に灰の目、不思議な形の瞳孔を持った、少女にも見える女性だ。


「指紋鑑定と血液検査、終わったっす」


彼女は深刻そうな表情で、私に書類を渡した。

書かれた内容を見て、部下を見る。


「なんですか」


彼女は首をかしげて私の瞳を覗き込んだ。

書類と僕の表情を同時に見る。


『これは…本当かい?』


そう聞くと、彼女は目を剃らした。


「偽る理由がないっす」

嘘をついているようにも見える仕草だった。

けれどもこれは彼女の癖だ。

大事で深刻で、僕が興味を持ちそうな話であればあるほど、目を剃らす。


『僕が担当するね、この子』


私は微笑んで、そう言った。


「…そうっすか」


一瞬、嫌なものを見るような顔で僕を見たあと、一瞬少年を見て顔を歪め、振り返って帰っていった。


面白いなあ。


柊 蒼空。


男なんだね、心中したその綺麗な左手の持ち主は。

目を閉じて開ける気配がない彼が起きたら、どんな話をしてくれるだろうか。

楽しみだ。

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