第一章 えいみん

待ち合わせ

俺は、唯一の親友と待ち合わせをしていた。

学校に行ってるのはこいつのお陰じゃないかというくらい、俺は疲弊していた。


そいつは、白いワイシャツに、黒いネクタイと黒いズボン。サイズのでかい上着を羽織り、スマホ片手になにかを聴いていた。


いつもとタイプが違う装いだ。

いつもはもっと…可愛いに振った服装、だった気がする。


それに、髪も少し短くなっていた。

あ、いや違う、今日もこいつを見たんだから…覚えてないだけで、もともと切っているのか。忘れてた。



ふと、スマホを取り出す。

最近の若者はスマホばっか見て…とか、叱られたような気分に、急になる。なんでだ?分からない。

今の時刻は。午後の4時44分。ギリギリ…セーフ。

なんだか不吉だな。4が3つ。

逆にこんなラッキー起こるのか…

約束まであと一分。

でも、なんかこのままだと嫌だし


ニュースでも見て…って。


「□□歳の男子高生自殺…」

「◯◯の時期、自殺者は増える一方…」



自殺…ねえ。


なんか、なんだか。

他人事じゃない気がする。

分かんないけど。覚えてないだけか?


「んん?ここだよお!なに?スマホ見てるのぉ?」


待ち合わせの相手が、此方に手を振る。

よく見るとそう言うこいつも、スマホを見て曲を聴いているようだった。

俺は駆け寄る。


「おう」

「…早かったねえ、今日」

「なにが?」


何が早いんだ…?


「いいや?なんでもなあい」


そういって彼女は目をそらす。

俺はなにか忘れているみたいだった。いつものことだ。

ふと、疑問になって聞いてみる。


「…なんの曲だ?」


スマホを覗き込む。


「わ、えっち!…勝手に覗かないでよお」


なんか勘違いされるからやめてほしい。その文言。


「ごめん」


謝っておいた


「あはは、いいよお。…とりあえず店入ってから、おしゃべりしよっか」


彼女はそういっていつもの喫茶店を指差す。

そして俺の手をつかんで引いた。

可愛い。…これもまた、忘れるだろうけど。

今日はなんだか、いつもと違うように見える気がした。

分からない。でも、なんだかいつもより、生き生きしているような気がする。


「いてて、引っ張りすぎ…」

「ぼけっとするからじゃん、ほらあ、いこ?」


いつもの通り、扉を開ける。

いつもの通り、店長さんが此方を笑顔で見る。

いつもの通り、探偵業を営む女性が新聞と、何もない空間とにらめっこをしている。

いつもの通り、綺麗な顔のスーツ姿がよくにあう女性と、顔が整った、スーツに黒い手袋をつけた男性が、楽しそうに雑談をしている。


「いらっしゃいませ、久しぶりだね。柊くん、誠人くん。いつものでよろしいでしょうか?」


店長が話しかけてきた。

いつも通りに、愛想がよくて、綺麗に笑う、優しい人だ。…不変。…変わらない。


「はい、それで…」

「…あ、店長、僕、冷たい珈琲ください!」


…僕?…それに、珈琲?


「…苦いのだめじゃなかったか?」

と、俺が聞く。

「んー…ブラックのよさに気づいたんだよお、最近ね」


そういって此方に微笑む。

可愛い。


「では、アイスコーヒーと…誠人くんはいつものでよろしいでしょうか?」


店長さんが優しい笑顔でそう言う。


「はい。お願いします」


俺はそう言った。

俺が頼むいつものは、えっと…なんだっけ?


「ねえ、誠人お」


机にだらーんと伸びて、親友は俺を呼ぶ。


「何?」

「僕らさ、久しぶりだよねえ、ちゃんと話すの」


本当に久しぶりだ。


「あんまり話せなかったから寂しかったんだよお、僕」


苦さが滲む微笑。

でも、すぐに楽しそうな笑顔に変わる。


「だからさあ、今日も、話せて、本当、嬉しいんだあ」


親友は姿勢をただして、そう言った。

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