地獄でまた会おう

ぽんぽん丸

第1話 人生最高の日

スライドショーはテンポ良く祝福を告げる。この場にいない人達まで笑顔で写ってくれている。私は感慨に浸りきれない。不倫によって破綻した一度目の結婚をどうしても思い出してしまう。


前妻は玄関の男の靴を隠してもいなかった。なのに私を寝室に入れようとしなかった。少し開いたドアの隙間から見える肩口は柔肌を露出していて彼女が全裸であることがわかった。なんでもないと言うのだけど私は彼等の唯一の出口の前に立っていた。前妻達がその後どうするつもりなのか私は心配になった。


式場のメインテーブルで過去の傷を思いだす。なぜだか私はひどく安心する。


しかし私の個人的な安心はまたあの男物の靴に簡単に乱されてしまう。スライドショーの一枚に確かに前妻と不倫相手の笑顔の写真が差し込まれていた。短い四秒ほどの写真は私の安心したこころを乱した。


私は横に座る妻の顔を確認した。妻は友人やよく知らない私の友人にまで祝福されたことで目を潤ませ確かな感慨を感じさせる視線を返した。素直な彼女は自身の結婚式でこんなサプライズを仕掛ける度量を持たない人間だ。


私は次に招待した友人の席を見た。前妻と不倫のことを知る親しい友人がこちらを見て式を壊さないように作った笑顔を透かして、わずかに怪訝な表情を見せた。先ほどの写真は確かに前妻と不倫相手のものであり、また実行可能な身近な容疑者達が犯人ではないことを悟った。


式は滞りなく進んだ。2回目のケーキ入刀、2回目のお色直し、2回目の義両親との約束。それについての攻めた冗談もウケていた。私の過去をすべてを受け入れてくれた。暖かくてすべて良かった。


私は妻が着替える間に式場の総括に声をかけた。動画が気に入って作った人にお礼を言いたいと伝えた。その日に撮った写真や動画を式の終わりに流す高いプランにした。そのために動画制作スタッフは式場にいた。


総括が笑顔で連れてきた男は前妻の不倫相手だった。彼は確か動画や写真に関係する仕事をしていたという話を思い出して納得した。


奴は新郎からの感謝を受け取るにしても大げさで気味の悪い笑顔をしてる。二三、私たちの式を褒めて自ら手を差し出して握手を求めた。私は奴と握手をした。私はそんな気がないのに力強く熱い握手だった。


私は式場のスタッフの手前、次々嘘をつく。妻との新婚旅行がちょうど彼女の誕生日と重なっていてサプライズの動画をお願いしたいと伝えて奴と連絡先を交換した。


妻と式場を後にする。


わざわざスタッフに直接感謝を伝えたことが私の普段の行動を鑑みると珍しく、そこに私の感動を見たようで嬉しいことだと話してくれた。


結婚式の日が終わり疲れて私の腕の中で幸せに眠る彼女のほほを撫でた。彼女は人生最高の日の疲れに浸り寝顔までほほ笑んでただただ安息している。


私はベットボードで充電しているスマホを手にとる。愛する人から離れてベットの淵に座り奴に連絡をした。返事はすぐに返ってきてその週のうちに会うことになる。


私は結婚式のその日に妻に大きな秘密を作った。

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