第50話 水着を作った
ざざーん、ざざーん。
「きゅいきゅい」
風に乗って届くイルカ達の声は、妙に落ち着く。
波打ち際に立つ。
足の甲に当たる波が心地いい。
素足に感じる白い砂浜の感触も、最高だ。
私はただ、海を眺める。
遠くの空を浮かぶように、海鳥がのんきに泳いでいる。
イルカ達はかなり自由に過ごしているな。
入り江にいる者もいれば、適当に外洋に出て魚を食べに行ったりもしている。
おそらく大規模な漁の時は、私も呼んでくれるのだろう。
「きゅいきゅい」
「きゅいきゅいきゅい」
「キュイッ!」
「その通りだろ、鮫とかモンスターとかいる海域に行くときは一緒についてきれくれよ、新入り」
海面にぷかぷか浮いているいイルカ達が、私に話しかけるように鳴く。
というか、なんだ。
「……やはり、明らかにしゃべっているよな、君」
「なんの事だかわからないぜ、常識的に考えて、きゅい」
「きゅいって言えば良いと思うなよ」
白いイルカがごまかすようにちゃぷんと海に潜っていく。
あいつだけ、割と本気で喋るんだが……このイルカ達、やはり只者ではないな……。
「あ、あ、あ、あ、あのー……さき、さき、さきしま、さん、その……着替え、できました……」
背後からかかる、か細い声に私は振り向く。
そして。
「ほう……」
「あう……」
異世界の人々はみな、容姿が整っている。
あの船で出会った冒険者や魔術師もイケメンと美女だった。
クリム君も例外ではない。
表情がコロコロ変わったり、火力モンスターの側面が派手だったりで気付きにくいが、前の世界であれば間違いなく芸能界級の容姿を持っている美少女だ。
腰まである長い金髪、人形のような長い手脚、すらりとしたスタイル。白い肌に小さな顔。青い瞳は作り物かと疑うような精巧さで。
そんじょそこらのアイドルが裸足で逃げ出すような彼女が、今、なんと。
「や、やっぱり、似合いませんよお~……これ……、ミズギ……? って言う奴……」
水着姿になっている。
うす水色のワンピースタイプの水着だ。
言ってしまえば、ちょい競技用系の奴だ。だが、クリム君が着るとスク水にも見えてきて少し危ないな……。
むき出しの白い脚の長さが強調される。ふむ、私が思春期であればこの姿を見ただけで、恋に落ちる可能性もあるな……。
皮肉なものだ、枯れ堕ちた後に、思春期の夢であったリアル水着美少女と海に来るなんてイベントを体験するとは。
「いや、そんな事はない。似合っている。君の白い肌と水竜の皮水着は色彩的にもブルべ系で相性は悪くない」
「ぶ、ぶるべ……????」
クリム君の水着はもちろん私が作成した。
水竜モードで脱皮したウロコ皮が材料だ。
便利なもので、竜形態の時にイメージしながら脱皮を行う事でワンピース型の水着を容易に作り出せた。
なんか途中で、我が神が自分の娘用に何着か欲しいから機能追加しとくわ、とか言っていたおかげだろう。
さすが我が神、さらっと全能。
ついでに作っていたビキニやフリフリ系の水着はKAMISAMAZONに納品してポイントに変えた。
なんか妙にポイントにボーナスが付いていた気がするが……気のせいだろう。
我が神が水着にはしゃぐようなそんな俗物とも思えない。
「う、うう、でも、この素材、すごく。肌になじむって言うか、着心地が良いっていうか、正直、普段着とか寝間着でもこれ、着たい……」
「そうか、水竜も喜ぶよ」
「――へ???? こ、ここここ。これ、もしかして……竜の、皮? てことは、竜素材の服飾品って事ですか!?」
「む? まずかったか?」
「ま、まままずかったかじゃないですよ! サキシマさん! 竜の素材って超希少品で、それも、服にも使えるような素材ってそれこそ下手したら貴族でも家宝級の――あ、でもそういえば、うちにも黒い竜の鱗の盾とか、剣があったような……――とにかく、こ、こんな高価なもの、戴けませんって!」
「気にするな、私――いや、水竜様が良いと言っているんだ。遠慮せず使えばいいさ」
「う、ううう~、ほ、本当にいいんですか? ど、どうやってお礼すれば……」
ぶつぶつ言っているクリム君だが、かなり水着自体は気に入っているらしい。
無意識か、ぴょこんと跳ねた金のアホ毛が小刻みに動いている、表情もかなり緩んでいるな。
「水竜も望んいるさ、君が楽しい時間を過ごすのをね」
さすがに私だけが海で遊ぶ訳にもいかないしな。
海パン刑事モードで動くのが割と当たり前になっていて気付かなかったが、クリム君はずっと魔術師の服だったし。
それに――。
「じ、実は、私、海で遊ぶの、初めてなんです……水属性の魔術師だと修行の過程で海や湖に行ったりもするらしいんですけど……」
意外にも、海で泳ぎたいと言い出したのはクリム君だ。
うんうん、新しい事に挑戦しようという若者はね、おじさん嫌いじゃないよ。
「なに、問題はない、すぐに慣れるさ。イルカ達もいる」
「キュイ!」
「きゅいきゅい!」
「あ、あう……行けますかね……で、では……ひゃ、ひゃあああ、冷たい……いいい」
クリム君が波打ち際に足を踏み入れる。
白い足を滑るように波が通り過ぎる。
「あ、でも、気持ち良いかも……砂浜も、なんか、ふふ、サクサクして良い……」
おお、金髪碧眼美少女と、青い海と白い砂浜の組み合わせ、凄いな。
これだけで現代なら金が取れそうだ……。
「あは! 波! 波、気持ちいい! うみ、海楽しいかも!! うおおおおおおおおおおおお!!」
ざぶざぶとクリム君が波に逆らい、海へ。
さすが若者元気がいい。
私も負けていられない。
クリム君を追いかける、しかし、彼女流石だな。
海で泳ぐの初めて言っていたのに、全く恐れず……うん?
待てよ……あいつ、泳げるって言ってったけ?
「ぐぼおおおおおおあああああああ!! 足、足が、つかない!!! 息も、出来ない!! わあああああああ!!??」
「キュイ!?」
「ああ! やっぱりと言えばやっぱり!! 流石とかじゃなくて、シンプルに度胸だけがあってしまったパターンか!! イルカ達!!」
「キュイ!!」
イルカレスキューが素晴らしいチームワークで、無駄に高い身体能力と度胸で勝手に溺れかけた魔術師を浜辺に押し戻す。
「ぜーはー、ぜーはー……」
息も絶え絶え、顔も真っ白。
いかん、私の責任だ。クリム君が、火力イノシシ娘という事を把握しきれていなかった。
これでは、水が怖くなって――。
「……面白い」
ぼそっと、クリム君が呟く。
「え?」
「お、お、面白い……! 身体、浮かなかったけど……水、すっごく冷たくて、気持ちい! さ、サキシマさん! あはは!! 凄い! 出来ない! 私、泳げない! 泳げる気がしません! でも、凄い! 凄い楽しい! あの! あの!! 足がね! つかない場所で、一瞬、水の中見えて!! 色、すごく、綺麗で! 魚とか、綺麗な岩みたいな海藻とか!!」
目をキラキラさせて、私を見上げる少女。
その目は、あの魔術師、ルートと名乗った美女も同じ目をしている。
「あはははっははは!! これ、凄い! 未知だ! うひひひ、物凄く。大きな未知、海、凄い!!」
「はは、なるほど、君は、君たちは――」
「さきしまさん、あの、泳ぎ方、教えてください!! 私、海、泳ぎたい! すごくすごく泳いでみたい! 遊んでみたいです!」
これが、この世界の人間、魔術師という存在か。
――冒険に行こうぜ。
あの夏のあいつらみたいな連中はここにも居たわけだ。
危なっかしいが、一緒に遊ぶには最高のバカが。
「――ああ、わかったよ、魔術師殿」
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