第49話 マリンスポーツで遊ぼう
「よし、クリム君、話し合いの結果を復唱してくれるかな?」
「はい!! ご飯を食べた後3時間は魔術を使わない、もしくは、必ずサキシマさんがいる場所で使う!! お約束します!!」
「よし、ほんと、ほんとそうしようね……ちなみに、あの規模の魔術って普通なの?」
「…………お姉ちゃ――姉が超調子いい時は似たような事が出来るかもしれません!!」
「クリム君のお姉さん、魔術師としてはどんな人なんだ? その、実力的な意味で――」
「帝国の歴史上最高の魔術師と呼ばれています!!」
「はい、さっきの約束絶対に守ろうね」
「はい!!!!」
すごい返事だけは良い。
クリム君との話し合いはすんなり終わった。
KAMISAMAZONでの大幅バフ問題について検証を行った結果。
あの巨大パワーアップは時間制限つきのものだった事が判明した。
異世界あるあるをやっただけなのに、島が焼き尽くされる所だったぞ……。
いや、だがしかし、さっきの戦術兵器のような魔術。
あんなのが使えるのなら、この島の探索も可能なのでは?
どんな化け物でもマップ兵器で焼き尽くすという選択肢があるのなら……。
「サキシマさん?」
「あ、ああ、すまない。少し考え事をだね。ふむ……食事のバフ問題はまあ、こうして気を付ければ良いとして……こうなると、かなり生活にも余裕が出たな」
「あ、あの、ちなみにご飯は何食ほど召し上がるのでしょうか……」
「そうだな、これまではだいたい1食で済ませていたが……」
「え……」
クリム君がこの世の終わりなみたいな顔で真っ白になる。
心なしか、金髪もすすけているような……。
「……君のような育ちざかりの少女にそれは酷だろう。以降は3食用意するように心がけるよ。さて、だが、そうなると、だ……」
私は少し考える。
食料の確保は目途がついた。
島の探索もあとは覚悟があれば可能。
私の目的は、この入り江を私だけのリゾートにする事だ。
そのためにこれからやるべき事は――。
「……いかんな、悪い癖だ。無意識にPDCAサイクルを回そうとしている……」
最悪クソ労働マンだった時の癖がまだ抜けない。
プランを立て、実行し、確認し、改善する。
仕事ありきの思考基準は、異世界にきても抜ける事はない。
違う……私のなつやすみはまだ始まったばかりだ。
もっと自由に、大胆に……。
思い出せ、私はいったい休んで何をしたかったんだ?
青い海、白い雲、イルカ、砂浜、美味い飯、入江
…………南の島で、私は。
「……そうだ、私は沖縄に行きたかったんだ」
「へ? お、おきなわ??」
「私は……仕事を忘れて遊びたかった。自分のやりたい事をやって自由に生きたかったんだ。そして、今、その理想の場所にいる……あとは、私次第じゃないか」
そう、私は大事な事を忘れていた。
大人って奴はいつもそうだ。
海や山を目の前にしたとき、なぜか、入れてしまうのは遊びスイッチではなく――大人スイッチ。
遊ぶべき時は遊ぶ、その覚悟をすべきだ。
「さ、さきしまさ~ん、お~い、き、聞こえてます~??」
「決めたぞ、クリム君」
大事なのは、子供スイッチを入れる事。
思い出せ、ガキの時の夏休みを。
麦わら帽子にランニング、虫かごと虫網とチャリだけで、どこまでもあのあぜ道を進んだ夏の日を。
もう名前も忘れてしまったあいつら。ともに木に砂糖水を塗ってカブトムシを捕まえたり、驚くほど冷たい川に飛び込んだり、花火大会の日に共に夜の山へ挑んだあの日々。
この夏は一度キリだぜ、冒険しようぜ、ビビってんのかよ。
名前も忘れた悪友達の声を思い出せ。
そうだ、そうなんだ。
「これは、私の夏休みだ」
あいつらなら、あの時の私なら、この世界に来たらどうする?
決まってる。
「ほへ? ど、どうしたんですか? ま、まさか、すでに、夕食の献立を???? わ、私はその、さっきのカレーでも全然、むしろ、大歓迎というか……」
「海で遊ぼう、クリム君」
――遊ぶんだよ、本気で。
「……え?」
なあ、お前達。
あの夏、確かに一緒に短くて永い夏を共にした顔も名前も思い出せない友よ。
ありがとう、お前たちともう遊ぶ事はきっとないけれど。
私は今でもあの夏を覚えているよ。お前達が教えてくれた事は覚えてるんだ。
だからこそ。
「マリンスポーツを、始めよう」
私はきっと、この世界でも楽しく遊べるよ。
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