第31話 開拓の相棒、炎属性
「早速だが、水竜様はこの入り江を我々に住みやすいものにか変える事を望んでいる、この場所にいたいというなら、君にもそれを手伝ってもらい事になるが、問題ないかね?」
「の、望む所です! リゾートなスローライフを目指して頑張らせてもらいます」
「うんうん、やる気があるのは素晴らしい。では、この無人島生活を互いに協力し合って行う訳だが……さて、まずは互いについて知る必要があるな」
「へ? た、互いについて、ですか? ……わ、わわわわわわ、たし、その、実はまだ男の人と付き合った事なくてですね! サキシマさんと水竜様は確かに恩人ですが、そういうコミュニケーション感覚で肌を重ねる文化がッ――」
「私は水をある程度操る能力が扱える、君が扱える魔術はどのようなものがある?」
「へ?」
クリムが固まり、口を開いている。
へ、じゃないが……。
何を言ってるんだ、この子は。
「あはははははは、魔術、魔術ですね! ごめんなさい、私ったら勘違いしちゃってあははははは、私みたいなイノシシ女にそんな、ロマポンセンセイの新刊みたいな事が起きる訳ありませんよね!」
「イノシシ? いや、普通に君は美少女と呼ばれる類の人間だろう? 髪もさらさらで、肌もよく手入れされているように見えるが……」
「えっちですよ!! 駄目です!!」
「ええ……」
顔を真っ赤にして砂を巻き散らし後ずさるクリム。
しまった、見た目以上に個性的な奴かもしれん。
思春期という奴だろう。
「はあ、わかった、私が悪かった。容姿の話はもうしない。この場所の開拓には君の力が必要だ、協力してもらえるか?」
「あ、あう、す、すみません、1人ではしゃいでしまって。こほん。私が扱える魔術は……そうですね、基本的には燃焼系ですね」
「なるほど、物を燃やす事が出来る訳か。素晴らしいな」
「えっ?」
「文明的な生活には、やはり火は欠かせない。休日にアウトドア講習は受けていたが、火熾しはどうも苦手でね、協力してもらえると助かる」
「え、あ、はい! うへへへ、ま、任せて下さい! じ、実はァ~実家でも、燃焼系魔術だけは誰にも負けた事なくてですね~ちょっと自信あるっていうか~」
くねくねしつつ胸を張るクリム。
うんうん、魔術師はこうでないと。
それにしても幸先が良い、同居人のスペックはかなり高そうだぞ」
「他に使える魔術は?」
「炎精霊イフリートの腕と契約しています! 空中に魔術門を作成してそこからドーンと燃え盛る腕で鉄拳制裁しちゃいます!」
「ふむ、中々武闘派だな。スローライフの邪魔をする連中がいたらその時はお願いするかもしれん」
「お任せください! 海賊船の大きなマストも殴り折ってやった自慢の魔術です!」
「ん? ああ、そうか、それは心強いよ、それで、他には?」
少し何かひっかかるものがあるが……。
気のせいか。
「はい! 他だと燃焼系魔術を発展させた固有魔術”火薬眼”という魔術器官を造っています! 詠唱なしで視線を媒介に見たものを炎上させる事が出来ます」
「……うん?」
「え?」
私が固まり、クリムも首を傾げる。
まさか、この子……いやいやいやいや、落ち着け、まだ結論を出すのは早いぞ。
「ほ、他の魔術は――」
「はい! これも私の固有魔術、実はまだ魔術連盟に申し出していないので非公開なんですが、伝来の燃焼系魔術を個別に発展させて、戦闘に最適化した”ファイヤーシステム”という戦闘魔術が主力です! 基幹としては、炎に斬撃の概念を付与した”斬炎”、温度は低めですが、絶対に消えない炎を生み出す”永炎”、青い炎で万物を焼き溶かす”蒼炎”がこのシステムを支えています!」
ま、まさか、この子……。
「あ、あとですね! ふふふふ、じ、実は、これはお姉ちゃ――こほん、実家の当主にも秘密にしているのですが、私自身の寿命を燃料にして、一時的に炎の神を降ろす”アグニ”という最終魔術もあります! 私の研究が正しければ、これは、竜とも真っ向勝負が可能な戦闘力を――」「ま。待て、ストップだ」
「ほへ?」
ほへ、じゃないが。
この子、もしかしなくてもあれだ……。
「あ、あ、あ! あの! えっと、えっとえっと! 他にも、モンスターが相手なら対モンスター用に開発した火焔線という魔術もあります! これはウロコや甲殻を持つ生物はおおざっぱな炎が効きにくいので、的確に目や口の中、鼻の中に魔力の導線を通して、粘膜を焼くっていう技で――」
脳筋(炎)タイプの魔術師だ! この子!
スローライフ適性が、ない!!!!
「あの、あの、あの……ワァァァァァァァ、そ、そんなそんな目で見ないでくださいいいいいいいいい、ごめんなさいいいいい、うええええ、生活魔術とか創作魔術使えないんですうううううう」
泣いちゃった。
しまった、能力は別としてみたところ十代中盤から後半。
がっかりした態度を見せるなど、大人として失格だったな。
「でも、敵を焼き尽くす才能にはあふれてるんですうううううううう、捨てないでええええええええええ」
いや、こいつ割りと図太い気がしてきたわ。
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