アニメ部ッ!

@snow_risu3

第1話 好きです!

今は7月。梅雨が明けて、日差しが強くなり登下校が辛くなる時期である。高校一年生の九条優斗は、大粒の汗をかきながら、学校へ至る長い坂を登っていた。

「景色が良いってのも考えものだな…」

俺、九条優斗は誰にも聞こえないような小さな声で悪態をつく。今通っている長坂高校は丘の上にあり、バスや鉄道の最寄駅は丘の下にしかないため、登下校には10分ほど坂を登る必要がある。市内には他に丘がなく、うちの高校が最も高い位置にあるため赤坂城なんて呼ばれ方もしている。中学生の時の俺は赤坂高校のオープンスクールに行ったのだが、

その時に教室の窓から見た景色が本当に綺麗で、こんな景色を見ながら、授業を受けれたら最高だと思っていた。ただ、入学から3ヶ月程たった今では、当時輝いて見えた景色も見飽きて、ただただ登下校が大変だという思いしかない。今日は金曜日なので、今日頑張れば明日休める!それだけのモチベーションで己を奮い立たせて坂を登っていく。


「キャーーー!結城先輩よっ!」

「わー顔小さい。スタイル良過ぎ!」

「付き合いテェっ!」


突如、近くに芸能人が現れたような黄色い歓声が飛び交う。

「暑い中、急坂を登っているのにも関わらずどこにそんな元気があるんだよ…」そう思い歓声の先に視線を向けると、歓声が飛び交う理由をすぐに把握することができた。


歓声の先には黒髪で端正な顔立ちをしているなぜかうちの制服を着た天使が佇んでいた。いや、天使ではないのだが、一瞬そのように勘違いをしてしまうほどの美少女、赤坂高校2年生徒会長 結城葵先輩がいた。


「皆さん、おはようございます」

結城先輩はそう、声をかけながら生徒会のメンバーと共に正門の方からこちらへ坂を降りてきた。おそらく彼女達は、坂の中間地点で朝の出迎えを行う道中なのだろう。坂の中間地点での朝の出迎えというのは、うちの高校に伝わる伝統で7月のみに行われるものである。昔、うちの高校では7月の暑い時期になると坂の途中で登ることを諦めて学校に通わない生徒が続出したらしく、その対策として生徒会に中間地点で挨拶させたところ、諦める生徒が減少したことからはじまった伝統らしい。当時は道が十分に舗装されておらず、正門への道もかなり遠回りとなっていたそうだが、現在では道が舗装され新道もできたので伝統を続けるべきかは微妙である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アニメ部ッ! @snow_risu3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ