第36話 なぜかを聞く
僕はリンの指摘を聞いて疑問が出来た。それはなぜその剣と鞘で彼らが騎士だとわかったのかという点。そして彼らがこの国の騎士であれば、なぜ同じ騎士であるフィリアを殺そうとするのかという点だ。
「リンはどうして彼らの剣を見てその二人が騎士だとわかったの?」
「簡単なことじゃ!儂とやりあっておったセネクスとやらも同じ剣と鞘を持っていたのじゃ。そこの男たちはこの町の兵士の変装は出来ても、使い慣れた武器は手放せなかったようじゃな」
なるほど。単純なことであった。だが代わりに同じ騎士であるフィリアはなぜ気づくことが出来なかったのか気になった。
「それでそなたはなぜ見抜けなかったのか?」
「それは…、その…」
リンが質問にフィリアは恥ずかしそうになって答える。
「…私が使ってる剣はフィン姉様から頂いた物だから。支給品の剣は家に飾ってあるのよ」
どうやらフィリアは特別扱いを受けていたようである。それゆえこの国で使用されている騎士の剣を見慣れていなかったのかもしれない。今回はその特別扱いが裏目に出たようだ。初めから見抜けていれば、リンに助けられることもなかっただろう。
「フッ…、どうやら見抜かれたようだな」
「先輩、どうするっすか?」
「まぁ、いいだろう。こいつらの言ってることは間違っていないからな。そうだ!俺たちは騎士だ。お前らの言うことは正解だ。ただ剣に関しては足りていないが」
「足りていないじゃと?」
「そう。使い慣れているから手放せないというのは、間違っていない。この国で騎士に支給される剣は一級品だからな。だが別の剣でも良かったのは事実だ。俺はただそこの小娘に同情しただけさ」
「同情?」
これから殺そうという相手にいったい何を同情するのだろうか。
「…そう。同情だ。俺とそこの小娘は名誉を尊ぶ騎士だ。同じ騎士としてこれから殺されるのであれば、そこらへんに売っている模造品で斬るのは可哀想ではないか?そんな剣より選ばれた者だけが持つことができる剣で斬られたほうがそいつも喜ぶだろう」
黒髪の男はそれが当たり前のような顔で言った。
「…ふん!くだらんな。それでそなたたちはなぜフィリアを狙うのじゃ?」
リンは僕が気になっているもう一つのことを言及した。
「やはり気になるか。まぁ当然か、いいだろう。何も知らずに死ぬのはそいつが可哀想だからな。パブロ教えてやれ」
「えー、いいんすか先輩?」
「いい。死人は喋ることは出来ない。せいぜい死神への土産話に持っていくといい」
「わかったっす。じゃあ教えてやるっす」
パブロと呼ばれた茶髪の男はにやにやして嬉しそうにした。表面上は先輩と呼ぶ男を止めたが本心は喋りたくて仕方ないようだ。まるで漫画のネタバレをするようにそいつは喋りだした。
「俺らの目的は、そこのお嬢さん。フィリア・クリスドールとセネクス・クレルディアの二人なんすよ。第一目標がそこのお嬢さんで、その次がベテランで信用の厚いおっさん騎士。本当は最初の一撃で仕留めるはずが、計画が狂っちゃいましたがね。なので今はそこのお嬢さんだけを殺すつもりっす」
「…何でその二人を?」
「仁よ、わかるはずじゃ。考えるのじゃ。その二人の共通点を」
「?」
リンは既に気づいているようだ。二人の共通点は騎士であることだ。ここ太陽神国の騎士。聖騎士であるフィンさんのお供をしている…。そこで僕も理解した。
「フィンさんのお供の騎士を狙っているのか?…でも何で?」
「正解。そこそこ頭は回るようっすね。理由はそこのお嬢さんならわかるんじゃないすか?今の時期に何が行われているかを考えれば…ね」
彼は答えにたどり着くように誘導している。僕らを子ども扱いしているようだ。だが彼のヒントでフィリアは察した。
「まさか教皇の選定…?」
「え?」
教皇の選定。どこかで聞いた話だ。たしか今この国は教皇がおらず、その選定中であること。派閥争いをしているせいかそれが長引いていること。そしてその教皇は十人の聖騎士が決める権利を持つこと。リリさんとの話で聞いたことであった。でもまだ謎はある。僕はそれが知りたくて聞く。
「何で…それでフィリアを狙うんだ?」
「ひひ。わからないっすか?そうっすよね!でもこうするしかあの聖騎士にダメージは与えられないんすよ。あの聖騎士は強すぎる。俺らの手に負える相手じゃないっす。だからその周りの人間を狙う。彼女の味方を斬って、彼女を支えるものを伐って、彼女の陣営を切り崩す。つまり派閥争いの一種というわけっす」
この男は言いたいことを言って満足そうにしている。この男の言うことを信じるのであれば、フィンさんがこの町に来ているのだって派閥争いの結果ということだ。だがこいつの言うこともわかる。フィンさんは強すぎる。だから別のところを狙う。彼女だって人間だ。味方がいなくなり、孤立すれば耐えられるものではないだろう。しかしわかるだけだ。納得は出来ない。それはリンも同様だった。
「…ほう。であれば儂らの存在は計算外だったのではないか?」
「…そうっすね。それは事実っす。でも逆に都合がいい状況になったっす。勝手に争い始めたんすから。ただ死神の使徒の存在は邪魔だったんでゾンビで足止めさせてるっすけど」
彼らはタイミングを見計らっていたらしい。そしてどうやらルイの方にもゾンビが行っていたようだ。それはつまりルイの援護は期待できないということを表している。
「じゃあ、フィンさんは…?」
「ひひひ。さっきこの町に響く鐘の音が聞こえなかったすか?あの聖騎士にはモンスターの相手をしてもらってるっす。この町の冒険者共と兵士と一緒にね」
「ふむ。儂らと引き離したということかのう」
彼らは計画をしていたようだ。用心深く、綿密に。そしてフィリアは狙われているもう一人の所在を聞く。
「…セネクスはどうしたの?」
「さぁ?知らないっす」
「フィリアとやら、安心していい。あやつにはゾンビの相手を任せておる。あやつは強い。一人でゾンビの相手ぐらい何とかなるじゃろう」
リンは他人事のように言った。それを聞いて僕は思った。リンはもしかしてゾンビの相手を押し付けたのではないだろうか。町中にゾンビがいることに異変を察知して僕たちのほうに来たのではないかと。押し付けられた方は溜まったものではないだろうなと思った。だが結果的にフィリアの命を救ったのだから、許してくれるだろう、たぶん。
「これでここの状況が、お前らの現状が、あの聖騎士の実情が少しはわかったっすか?」
この男はむかつく笑顔を浮かべた。
「ふん!わかっておるわ。つまり儂らがそなたたちを倒せばその計画は潰えるということじゃ!そなたちが時間をかけて、労力をかけて、金をかけたであろう計画がな」
さすがはリンである。僕もそのつもりであったからだ。それに対し、今まで黙っていた黒髪の男が答える。
「ガキどもに何が出来るというんだ?俺たちは騎士だ。訓練を積み、経験を積んでいる。大人の騎士として、騎士の大人としてお前らを斬ってやろう」
どうやらここで話は終わりのようだ。
僕は正直教皇の選定などという国の行く末を決める行事とは関係のない一般人だ。蚊帳の外にいる冒険者だ。この世界の初心者である異世界人だ。でもフィンさんの人柄を少し知っている。知ったうえで少し信頼している。そしてこの二人組の男に少しイラついている。フィンさんは決してこんな卑怯な男たちに邪魔されていいような人ではない。こんな自称騎士のような存在に。
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