第24話 とっておきの店
「これで講習は終わりみゃ。お疲れみゃ」
「お疲れ」
お昼を少し過ぎた頃、冒険者ギルドにおける初心者向けの講習が終了した。ここまで講習を受けてきて、意外と勉強になったなと感じた。
スーネはアホっぽい言動に反して、真面目に教えてくれた。それに所々で、ウービが説明の足りてない部分をアドバイスしてくれていた。なのでわかりやすいものとなった。そして戦闘に関して、彼女たちはやはりベテランの冒険者であった。僕よりも強い。短い時間ではあったが教えを受けて、少し成長したような気分になった。
スーネはショックで座っている僕を見て何かを思いついた。そしてそれを口にする。
「そうみゃ!おみゃーら、槍を壊してしまった事に対するせめてものお詫びと新しい弟子が出来た祝いをするみゃ。ミャーが師匠として昼飯奢るみゃ」
「それはいい考え。スーネの奢りで食べ放題。…じゅるり」
「食べ放題じゃないみゃ。それにおみゃーには奢らないみゃ」
「それはひどい。最近たくさん寝坊してあたしに迷惑かけてるくせに」
「それは別に関係ないみゃ。ミャーが朝に弱いだけみゃ」
どうやらスーネは寝坊助らしい。彼女らしいといえば、らしい。そしてご飯を奢ってくれるようだ。。僕とリンは金欠なので、喜んでその申し出を受けた
「それじゃ、みゃーがこの町で見つけたとっておきの店に行くみゃ」
僕らは揃って移動した。受付にいたヘレナさんに一声かけて、冒険者ギルドから出る。そして彼女たちの後をついていくと、ステーキの看板がついた店に着いた。その店に入ると焼けた肉の香ばしい油の香りが広がった。既にお昼のピークは過ぎているはずだが、それなりに席が埋まっている。だが満席ではないので僕らは空いてる席に勝手に座った。そして注文を聞きに来た店員に人数分の料理を頼んだ。
「ここはおいしいステーキが有名なのみゃ」
「いいお店」
「そうか。そなたらは獣人だったな。やはり獣人は肉が好きなのか?」
「そうみゃ。ミャーたちは獣人で嗅覚が鋭い。だからここの店に入るとステーキの香りで満たされて幸せになれるみゃ」
「そのとおり」
うんうんとスーネに同意するウービ。せっかくの機会なので料理が来るまで、彼女たちに色々聞いてみる。
「そういえばさ、スーネたちは結構強かったけど冒険者ギルドのランクはいくつなの?」
「それは儂も気になる。そなたらは獣人の身体能力を持っているゆえ、それなりに強い。それに儂はともかく、そこそこ槍が使える仁を簡単に負かした。どうなのだ?」
「ミャーたちは、ゴールドみゃ」
「そう、ゴールド。あたしは魔法込みでここまで強くなった。だからあたしたちと互角でやりあえるリンは異常」
「ほう。ウービは魔法も使えるのか」
魔法。冒険者ギルドで魔法使いっぽい格好をした人もいたから気にはなっていた。だがまさかウービが使えるとは。興味があるので、詳しく聞く。
「魔法ってどんな魔法なの?」
「あたしは身体強化の魔法が使える。ちなみにスーネは使えない」
ウービはスーネをちらっと見てドヤっとした。だがスーネは魔法が使えないのに、拳で槍を砕く。彼女はウービと同じランクの冒険者だ。それはそれで凄いと思う。
「何でスーネは使えないの?」
「スーネには魔力がない。才能がない。だから使えない。あたしは集落の長の娘。たまたま魔法が使える素養があった」
「ふむ。なるほどな」
「ちなみに僕たちはどうかな?魔法使えたりしない?」
魔法が使えるようになれば便利そうだ。ライターなしでも火を起こせるようになるに違いない。
「いや、あなたたちからは魔力を感じない。たぶん無理」
無理なのか。少し期待してしまった。でもしょうがない。だって僕はこの世界の人間でないから。
「そういう意味ではおみゃーたちは異常みゃ」
「どこがじゃ?」
「おみゃーたちはまだ子どもみゃ。そのくせリンはミャーたちと互角にやりあえるし、仁もその年齢にしてはかなり動ける。なんでみゃ?」
「話したくないなら、言わなくてもいい」
僕とリンは互いに顔を見合わせる。
「仁。こやつらは悪い奴らではなさそうじゃし、別に言っても良かろう」
「そうだね。僕も反対はしないよ」
彼女たちは第一印象は悪かったが、講習を受けて別に悪い人たちではないことがわかった。彼女たちの言動はともかく、教え方が丁寧であったからだ。
「儂らは神性力を持っておる。それゆえじゃ」
「加護持ちということかみゃ?」
「そのようなもんじゃ」
「それなら納得」
彼女たちはすぐに納得した。もしかしたら事前に神性力を持っているんじゃないかと検討をつけていたのかもしれない。
「ちなみにどこの神様みゃ?」
「それは秘密じゃ」
さすがにそこまでは言わないようだ。リンは神そのものだし、僕もどの神の加護を持っているかわかっていない。それをそのまま話すのはバカのすることだ。そのとき店員がステーキを運んできた。
「やっと来たみゃ!待ってたみゃ!」
待ちきれなかったようでスーネは肉を凝視していた。ちなみにウービもだ。僕もお腹が空いていたので、一緒になって店員の運んできた皿を見る。
それはかなり分厚い赤身肉のステーキであった。湯気を立てている。鉄皿の上では肉汁が跳ねてジューっと音を立てており、それが食欲を搔き立て、僕らの心を湧き立てる。そしてステーキの上には溶けだしたバターがあり、それが濃厚な香りを立たせている。僕らはナイフとフォークを持ちながらテーブルの上に立たせ、それぞれ食事の挨拶をした。
その後この赤身肉を縦に切り分け、口元に運んで歯を突き立てる。その瞬間、この肉の暴力的な旨味には他のいかなるものも歯が立たない。そう思った。胡椒や塩の加減も抜群であり、赤身肉の筋が断ち切らているゆえに噛み応えがありつつも柔らかい。
この店に良い評判が立つのも理解でき、僕らがまたこの店に通うであろう見通しが立った。夢中になって食べ終わり、気づいたらそれなりに時間が経っていた。僕らは食後の満足感を味わった後、席を立つ。そしてこの店に連れてきてくれたスーネの顔を立てるためにお礼を言う。
「ありがとうスーネ師匠。こんなにおいしいものを紹介してくれて」
「こんなときだけ師匠呼びするのはやめるみゃ!でも満足したなら良かったみゃ」
スーネはこんなときだけ師匠呼びする僕に少し怒りながらも、感謝の言葉を受け取って照れたようにそう言った。
「さすが師匠」
「そうじゃな。さすがは師匠じゃ」
それにリンとウービが便乗した。
「おみゃーたちはミャーの弟子じゃないみゃ!それにこんなときだけ師匠呼びしてもそんな簡単に飯は奢らないみゃ!」
「師匠呼びして損した。だから奢るべき」
「そうじゃな」
「おみゃーら!いい加減にするみゃ!まったく…」
かなりおちょくられている。スーネらしい。
僕がスーネに感謝しているのは事実だ。こんなにおいしいものをこの世界に来て初めて食べたのだ。もちろん元の世界であれば、お金さえあればいつでも食べることができる。だがここは文明レベルが高くない異世界だ。分厚い肉でさえ安くはないだろう。なのに肉に胡椒まで使われているということは、それなりの値段のする料理だということだ。僕たちは会って、一日もない。なのに彼女は師匠として、そんな店を紹介して奢ってくれた。僕は嬉しくなり、スーネのことが師匠として少し好きになった。
「でもこんないい店に連れてきてくれて本当に嬉しかったよ」
「師匠として当然のことをしたまでみゃ!ちなみに仁はミャーの弟子だから、いつかもっといい店をミャーに奢るみゃ!弟子は師を超えるもの。だからミャーにここよりいい店を紹介するみゃ。そしていい思いをさせるみゃ!」
スーネの顔が少し赤くなり、照れ隠しのようにそう言った。だがそれもいいかもしれない。正直成り行きで弟子になったが、案外悪くない気分である。
「そうですね。約束します。いつかここよりいい店を奢ります。出来なかったら別の形で返しましょう」
「期待しておくみゃ!まぁ、でも仁はまだ子どもみゃ。最悪いつかここの店を奢ってくれればそれでいいみゃ」
「それはスーネがまたステーキ食べたいだけ」
「さっき食べたばかりじゃと言うのに食いしん坊なやつじゃな」
「みゃはは。そうとも言うみゃ」
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食事シーンの描写は初めて書きましたが、少し遊んでます
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