第19話 〇〇〇な僕ら

 僕らはルイが泊まっていた宿でそのまま休んだ。ルイは冒険者ギルドへの報告は明日にするそうである。きっとルイも疲れていただろう。

 ここの宿に来るまで、いくつか驚いたことがあった。それはこの町には獣人やエルフやドワーフがいたこと。そして大きな剣を担いだ人や魔法使いのような格好をしている人など武装をしている人が多く歩いていたことである。前者に関しては、人間、獣人、ドワーフ、エルフといった順に人数が少なくなっており、元の世界にいないファンタジーな種族を見つけて少しテンションが上がった。彼らの種族を見つけるたびにじっと見てしまい、それに気づいた彼らに嫌そうな目で見返された。そしてリンに注意を受けた。後者に関してはやはり冒険者の町と呼ばれるだけあり、戦いに備えた服装をした冒険者と思われる人がたくさんいたことである。日本やレオナさんたちのいた村ではそんな人たちはいなかったので、目を丸くした。ただやはり彼らは戦いに生きる人ゆえか鋭い目をした人も多く、僕は少しビビって目を合わせないようにしていた。


 そして次の朝になり、ルイの報告と僕の身分証作りのため僕達は冒険者ギルドに向かった。ルイに案内してもらいながら、そこに着くとでかい建物があった。冒険者の町と言われるだけあり、大通りに面した場所にある。その建物を荒くれっぽい武器を持った人たちが出入りしていた。

 僕はその扉の前に立ちながら、行ったことのないヤクザの事務所にこれから入るような感覚になった。僕達の見た目が幼いため、もしかしたら彼らは僕達に突っかかって来るかもしれない。だが舐められたら、いいことはない。僕はいざとなったら、やるしかないという気持ちで槍を強く握った。そんな僕を心配したのかリンとルイが声をかける。


「仁、そう緊張するでない」

「そうだよ。ここは楽しい場所なんだから」


 ルイがにこにこして言った。楽しい場所というのはよく理解できないが、少し気持ちが軽くなる。


「そうだね。緊張してもしょうがないか」


 別にここを開けたからといって戦闘になるわけではない。僕らは扉を開けて、入っていった。そこには多くの冒険者がいた。人間に獣人にエルフやドワーフである。彼らは入口に現れた僕達を一斉に見た。僕達は同じタイミングで入ったが、それにしては視線がかたよっているような気がする。だがすぐにわかった。彼らは僕達、というか僕の横を見ていた。ルイである。彼らはルイの大鎌を見て、十字架を見た。そして彼らの反応を見てにこにこしているルイの顔を見ないように目をそらした。楽しいというのはこういうことか…。僕は理解した。ヤクザはいたのだ。僕の隣に。


「ルイ…」

「ルイ、そなた性格が悪いと言われたことはないか?」

「え?ないよ。いい性格してるとは言われたことはあるけど」


 彼はニコニコして言った。確信犯である。僕らはそのまま受付に向かってまっすぐ歩いて行った。僕らが歩く方向にいた彼らは、一人残らず退いた。ヤクザは僕らだった。彼らは僕らに聞こえないような声でコソコソと会話した。


「死神の使徒だ…」

「死神の使徒といえば、やべー奴らしかいないというあの…」


 少し耳をすませば死神の使徒の評判が聞こえてきた。僕は溜息をつきたくなった。そして受付に着き、ルイがキャリアウーマンのような眼鏡をかけた黒髪の女性に声をかけた。


「やぁ、ヘレナさん。依頼達成の処理と新規冒険者の受付をお願い!」

「おはようございます、ルイ様。依頼達成の処理と新規の登録ですね。承知いたしました。依頼について何か報告事項はございますか?」

「あるよ。実はボクが行った村なんだけど、200体以上のゾンビに襲われてたんだ」

「⁉」


 ヘレナさんは驚きで目を見開く。周りいた冒険者も驚いている。


「そんなことが…。詳しいお話をお聞きしても」

「いいよ。ただ村に襲ってきていた200体以上のゾンビを村の人とボク達で倒したことと、そのとき森に異常があったこと。それが解決したら森が今までどおりになったことしか報告することはないかな」

「そうですか。ありがとうございます。あなた様がいなかったらどうなっていたことか」

「まぁたまたまタイミングが良かったよ。いつもここにいる冒険者は他の調査でいなかったし、ボクも暇だったから」

「そうですね。死神様とあなた様に感謝ですね」」


 ヘレナさんは笑顔で言った。どうやらルイとヘレナさんという女性は知り合いのようだ。


「ヘレナさん、ちなみになんだけど今回の件で追加報酬とかはないの?」


 ルイが質問をした。確かに彼の受けた依頼は調査だけであったが、ゾンビも処理した。それにひとつの村を守ったのだ。あってもいいのではないかと思えた。それに対して彼女は小さめの声で返答する。


「…ありません。今回はこの町を治める代官様の依頼がない状態で討伐が行われました。そして本来ならあってもおかしくないですが、この話を報告しても現在の代官様は報酬を出してはくれないと思われます」


 どうやら現在この町を治めている人はケチくさいようだ。


「そう。じゃあ無理も言えないかな。じゃあ彼の登録をしてあげて」

「…承知いたしました。では登録させていただきます。ではお名前からーー」


 そうして僕は登録を進めた。ついでに冒険者ギルドの軽い説明も受けた。それによると冒険者にはランクがあるそうだ。下からアイアン、カッパー、シルバー、ゴールド、プラチナとあるそうだ。ちなみのリンは一番下アイアンである。それについてリンに聞いた。すると『儂は身分証のために登録したのであって、ランクを上げることに興味はない』のだそうだ。僕も少しは興味はあるけど、熱をもって取り組むつもりはない。ついで程度でいいだろう。そして登録の際に少し費用がかかったが、これもルイの報酬から引いてもらった。


「これで登録は完了です。こちらのプレートをお渡しします。なくした場合は再発行に手数料がかかりますのでお気をつけください」


 そうして僕はリンと同じアイアンのプレートをもらった。


「それと冒険者ギルドで初心者向けの講習を行っているのですが、仁様は参加されますか?」


 講習かどうしよう。リンのほうをちらっと見ると頷いた。どうやら受けたほうがいいようだ。


「お願いします」

「承知いたしました。では早ければ明日やっていますがご都合はいかがでしょうか?」

「明日で良かろう。儂も興味があるゆえ見学する。良いな?」

「もちろんです。講習自体はお金がかかりませんので、明日来ていただければと思います」

「わかりました」


 その後ルイは報酬を受け取り、僕は返事をして冒険者ギルドを出た。そこでふとルイの冒険者のランクに気になった。


「そういえばさ、ルイの冒険者のランクは何なの?」

「ボク?ボクは冒険者のランクは持ってないよ。使徒だからね。ボクら死神様の使徒は彼らのルールに収まらない部分があるから。だから強いて言えば、使徒ランクだね」

「使徒ランク…」


 よくわからないランクだ。だが確かにルイの強さは別格だ。それに死神の使徒という特別な地位もある。彼らは時に、使徒のルールで動く。プラチナランクやゴールドなど彼らと同じ扱いは難しいのだろう。ゆえに特別扱いされてるから使徒ランクと言ったのだ。


「それじゃあ、ボクはこれから死神様の教会に行くけど、君たちはどうする?一緒に来る?」

「行ってみたい。興味があるよ」


 僕は単純な興味から目を輝かせて言った。


「ふむ。そうじゃな。時間はあるし、ついていくか」


 こうして次の目的地は死神の教会に決まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る