第18話 門にて
仁視点に戻ります。
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出発の日となった。準備を終わらせ、村の入口で立つ。雲ひとつない中で俺が主役だ、と主張する太陽のもと村側を振り返る。村の入口にはそれなりの数の村人がお礼を言いに来てくれていた。村長やレオナさん、レナちゃん、そして一緒に戦ってくれた村人たち。口々にありがとうと言ってくれた。僕はこのとき、この村を守れたんだなと一人感動した。そしてリンはレナちゃんに抱きつかれ、号泣されている。リンはレナちゃんの頭をよしよしと撫でた。そしてレナちゃんが泣きながら言う。
「リンちゃん、また会いに来てくれる?」
「ふーむ…。それは約束は出来んな。じゃがレナのことは忘れないと誓おう」
リンは困ったように言った。それを見てレオナさんが窘める。
「レナ、わがままを言ってリン様を困らせてはいけませんよ」
「…うん」
レナちゃんは最後にぎゅっとリンを抱きしめた。そして村長が最後にお礼を言う。
「リン様、一度ならず二度までも我々をお救いいただきありがとうございました。仁様と使徒様もまともなお礼が出来ず申し訳ありません。今回のことは、我々一同とても感謝をしております。また何かありましたらご遠慮なく、この村にいらしてください」
「そのときはそうさせもらおう。儂らも世話になったな」
少しだけ一緒に暮らしてわかったことだが、彼らの暮らしも楽ではない。それに小さな村なので、たくさんお金があるわけではない。元々はいくらか持っていたが、ギルドへ依頼するために全て使ってしまったようだ。お礼として寝床や食料を分けてくれただけで十分だと思えた。そうして僕たち三人はお別れを言って、町に向かった。村の人たちは僕たちが見えなくなるまで、手を振ってくれていた。
しばらく三人で歩いていると僕はルイに質問をする。
「ルイ、ルバーナの町ってどんな町なの?」
「冒険者の町だよ。その町はーー」
ルバーナの町について聞いた。ルバーナの町は、今僕がいる国である太陽神国という名前の国の北の辺境にある町らしい。そしてこの町が出来た経緯は、北の森の魔物とも呼ばれるモンスターを狩ることを目的とした拠点として作られた。つまりルバーナの町は対森の魔物に対する重要拠点であり、最前線となっているとのこと。そして何か起きた場合、国の首都から一気に騎士や兵士を送れるようにしているようだ。そのためルバーナの町と首都は遠いが、ひとつの道でつながっている。そしてその道を通り首都から商人が物を運んでおり、町を出ていく商人は魔物の素材を持って帰っているらしい。
「ちなみに村から町までは歩いて一日なんだよね?何で村を昼に出たの?」
「それはね、朝は町の入口が混んでいるからだよ。ルバーナの町はこの辺では大きいからそこそこ人がいるんだけど、その分商人の出入りも激しんだ。特に朝はね。だから村を朝出ると途中で休憩しても朝に町に着くんだ。それだとそれなりに待つことになるかもしれないから」
しっかり計画されているようだ。
「でも君たちが走ってもいいと言うなら、朝出ても問題ないんだけどね!」
ルイがにやっとして言った。だがそれは困る。せっかく着いたのに、息切れをしながら町に入りたくない。
「いや、遠慮しとくよ…」
「仁は鍛え方が足りないね!」
ルイは嫌がる僕を見て嬉しそうにした。
「そういえばさ、仁って異世界人なのにどうしてこの世界の言語を理解しているの?」
唐突にルイが聞いてきた。確かに不思議だ。いったいなぜだろうか…。
「何でだろう?わからない」
「ふーん…。もしかしたら、君の神性力に関係があるかもね」
「そうなの?」
「うん。この世界でよくわかんないことが起きたときは、大抵神性力が働いていることが大きいんだ」
「ふむ。儂も不思議に思っておったが、それは一理ある意見じゃな」
リンもルイに賛成のようだ。いったい僕に加護を与えた神様は誰なんだろうか?そんなことを考えながら歩いた。
途中で野営をして休み、明け方出発した。そして昼になり、ルバーナの町の城壁が見えてくる。やはり対モンスター用の拠点として建てられたため、頑丈そうだ。僕はやっと見えてきた城壁に気を良くする。しかし、町の入口に向かうと10台以上の荷馬車が並んでいるのが見えた。
「結構並んでるね。ルイ、この町は昼もこんなに混んでいるの?」
「いや、入口はここだけじゃないから珍しいと思うよ」
そうして僕らも近づく。荷馬車には日光に当てないようにするためなのか全面に布が掛けられている。その隙間から少しだけ小麦の入った袋が見え隠れしていた。他の荷馬車も見てみる。全ての荷馬車ではないが、過半数同じように小麦の入った袋が見え隠れしている。これ全部が小麦の入った袋だとするとすごい数だ。
「小麦をたくさん運んでいるみたいだね。もしかして小麦って今が収穫の時期なのかな?」
「そうかもね。かなり運んでいるみたいだし、一斉に収穫して一斉に出荷しているんじゃない?ボクも農業は詳しくないけど、一気に収穫して時間がかかったからこんな時間になったんだと思うよ」
「それはありえるな。儂だったら朝に来てさっさと売って、暗くなる前に帰ろうとするじゃろう」
リンも頷く。でも僕たちは農業をやったことはないので、確かな理由はわからなかった。
「じゃあ、並ぶしかないね」
「じゃが、儂は正直なところさっさと町に入りたい。それにあやつらも後ろに大鎌を持ったやつがいるなど気が気ではないじゃろう。ルイ、なんとかならんか?」
「この十字架を見せれば大丈夫だと思うよ。でも彼らがボクにビビってる顔って面白いし、ボクらを散々待たせたときの兵士の顔も楽しそうでしょ。だからボクはこのままでもいいよ」
ルイはかわいい顔で言った。僕は引いた。
「それは門の兵士たちが可哀想じゃ。行くぞ。ルイの十字架と大鎌を見れば、並んでいる者たちも嫌な顔ひとつで済むじゃろう」
リンも僕と同じ気持ちで安心した。そして門の前まで行き、ルイが十字架を掲げながらそこの兵士に声をかける。
「ねぇ、ボクたち先にこの町に入りたいんだけどいいかな?」
そこの兵士二人が僕達に気づいた。そして十字架を見てルイが使徒だと理解したようだ。
「では他の方たちも身分証をお願いします」
「こっちの仁は身分証を持ってないんだけど、どうすればいいかな?」
「それでは…」
ルイが僕を示して言った。だが二人の兵士はすぐに返答せず、僕をジロジロ見た。まるで僕からいくら搾り取れるかと考えている目だった。だが彼らはちらりとルイを見て言う。
「銀貨一枚が身分証のない方の入場料です。その額を納めてください」
どうやら僕からぼったくるのは止めたようだ。だが僕はお金を持ってない。リンを見るが首を振っている。彼女は宝石は持ってきたようだが、現金はないようだ。
「ルイ、儂らは現金を持っておらん。立て替えてくれ。そなたは村から依頼を受けておったろう。儂らも依頼に貢献したといえるからそこから引いてくれ」
どうやらリンは宝石を持っていることは言わないようだ。
「仕方ないなぁ。今回だけだよ」
ルイはそう言って、銀貨を支払った。そして町に入る。そこに入ると映画で見た中世ヨーロッパのような町並みが広がる。歩きながらルイが振り返る。
「じゃあ、さっそく宿を決めないとね!」
「それはいいが、さっきの兵士はなんじゃ?仁を変な目で見ておったが」
「あんな目で見られるのは初めての体験だよ。もしかしてこれも異世界の常識なの?」
日本じゃあ、あんな目で見てくる人は周りにいなかった。なぜなら僕まだ16歳だ。社会に出ればあるかもしれないが、初めての体験をした。
「さぁ?ボクはこの町に住んでいるわけじゃないし、いつもこの十字架を見せればどこでもすぐ通してくれたからわかんないや」
「儂も冒険者のプレートがあれば、すんなり通れたからな。今のが普通かどうかわからぬ。しかしこの町ならありうる。儂はこの町とは少し因縁があるからのう。まぁ気にするだけ無駄のようじゃ。それより今は宿決めをしよう」
リンが話を打ち切った。リンの言う因縁とはレナちゃんのことを言っているのだろうか。
「じゃあさ、ボクが泊まってた宿にしようよ。安くはないけど、いいところだよ」
「そうじゃな、そこで良い。儂らはこの町の宿には詳しくないからのう」
「仁もいいよね?そこで」
「もちろん」
僕らはルイの案内に従ってついていった。
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