第14話 ぐぬぬ、やはりこやつ許すまじ…

 なぜ彼は僕が神性力を持っていることを知っているのだろうか。それに彼のいたずらっ子のような笑みが怖い。彼の言う、いざというときが来ないことを祈ろう。リンと死神に。


「ルイ、なんで僕が神性力を持っていることがわかるの?」

「え?気づいてないの?仁って変なの。それは君が漏らしているからに決まってるじゃん」


 漏らしている?思わず股間を見てしまう。ルイはそれを見てクスクス笑った。


「そっちじゃないよ。神性力のこと。君がコントロールできてないから漏れてるんじゃないの?」

「え!そうなの?」


 確かにリンからオーラが見えたときも彼女は神性力を漏らしていたと言っていた。


「うん。きちんと神性力が体の中を循環出来ていない証拠だよ。でも本当に変だよね?力の大小はあるけど、神性力は加護を得たときから少しは自由に使えるようになるはずなんだよ。だから神性力を循環させることぐらいは当たり前のようにできるから、漏らすことなんて本来はないはずなんだ」

「そう言われても…。何かコツとかないの?」


 無意識で使っていたせいだろうか。僕は神性力を自覚出来ていなかった。ゆえに漏らすなんて恥ずかしいことをしているつもりもなかった。


「そんなものないよ。いいかい?神性力を循環させることは当たり前のように出来ることなんだ。息を吸えば吐くように。右足の後は、左足を出して歩くように。神性力を持てば、体の中を循環させられる。それぐらい自然なことなんだよ」


 そこまで言われると自分がおかしいことがわかる。ルイは上目遣いで僕の目を見てにこっとする。だが彼の目の奥は笑っていない。


「だから仁、君は変なんだよ。もしかして君が着ている服も何か関係があったりして?」


 ドキッとした。確かに僕はゾンビと戦い、そのまま眠った。なので今もTシャツとズボンだ。戦いで汚れてくさくなったから着替えようとは思っていたが、だがその前に違和感に気づかれ怪しまれていたようだ。僕はなんて言おうか困る。するとそれを見かけて、横にいるリンが溜息をついた。


「はぁ、仁。こやつはバカではないゆえ、下手なごまかしは通じぬ。それにルイは死神の使徒で社会的な信用もあるため、黙秘もできぬ。こやつが変に騒ぎ立てれば面倒なことになる。正直に言うしかあるまい」

「そうそう!素直に吐いて楽になりなよ」


 ルイはリンに援護射撃をしてもらえて嬉しそうである。


「わかったよ。ただその前に着替えさせて」

「ふむ、良いじゃろう。ただこれから話すことは誰かに聞かれ、吹聴されたくない。ゆえに誰もいない森で見回りをしながら話そう。ゾンビどもを倒したが、森の様子を確認しておかねば安心はできまい。儂は村長にその旨を伝えてくるから、森方面の村の入り口で集合するぞ」

「おっけー」


 ルイが返事をする。


「仁もそれで良いな?ついでに村の者に桶と何か拭くものをもらって、水浴びもしてこい。村の避難所の裏にきれいな川がある。そこでさっぱりしておけ。ゾンビを焼いた煙で紛れているが、そなたはくさいぞ」

「そうかな…」


 見た目が少女のリンに臭いと言われると少しへこむ。ボクシングで1ヒットされた気持ちである。


「確かににおう!仁の鼻は生きてるの?大丈夫?」

「そ、そこまで言わなくても…」


 2ヒット目を食らった。これ以上はKOされそうである。


「わかった。すぐに行くよ…」


 臭い臭いと指摘されると急に周りの人の視線が自分に向いていないか気になる。ひっそりと悲しくなった。

 すぐに村の人たちに水浴び場を案内してもらった。そこにルイも一緒についてくる。


「ルイも水浴びするの?」

「そうだよ。ボクはきれい好きだから」


 お互い上半身を裸にして、水浴びをした。少し退屈したのかルイが話しかけてくる。


「ねぇ、仁。さっきの話だけどさ」

「さっきの話?」

「そう。体内の神性力の循環が出来ないって言ってたよね?いい方法思いついたんだけど、ボクの言う通りにやってみない?」

「いい方法?」

「そうボクがさっき言ったよね?息を吸えば吐くように。右足の後は、左足を出して歩くように。神性力を持てば、体の中を循環させられるって。そんな感じでやってみようよ」


 ルイが不意に真面目な顔になる。ルイは僕に協力的になってくれているようだ。神性力のコントロールを自在に出来ればゾンビと戦うとき、もっと安定して戦えたかもしれない。それに僕は2度と漏らしていると言われたくないため、彼に喜んで従う。


「いいの!ぜひお願いするよ」

「じゃあ、まずは足を肩幅に開いて」


 足を肩幅に開く。


「次は足の膝を少し曲げて」


 膝を少し曲げる。


「そのままで膝を少し外側に向けて」


 膝を少し外側に向ける。


「今度は両手をまっすぐ上げて」


 両手をまっすぐ上げる。


「指先も伸ばす」


 指先も伸ばす。


「両手を上げたまま、指先を頭につけて」


 両手を上げたまま、指先を頭につける。ん?


「はい!お猿のポーズ!」

「⁉」


 はめられた!

 びっくりしてルイを見ると彼の目は笑っていた。僕を見て、口角を上げていた。僕の猿のポーズで体全体を震わせていた。


「あーはっはっはっはっは!あーはっはっは」

「…」


 ルイが爆笑する。恥ずかしくて顔が熱くなる。それを見てさらに楽しそうにルイは笑った。


「はぁはぁ。ふぅ、仁って素直なんだね!」

「素直じゃない。真剣だっただけだ」


 息を整えたルイが僕をバカにする。僕は言い訳がましく答えた。ルイに完全に騙されていた。むかつく。


「もういいよ。笑いたければ笑え、まったく…」

「いやー、ごめんごめん。今度は真面目にやるからさ。許してよ」

「はぁ、絶対だぞ」

「うん!絶対絶対」


 今度恥をかかせたら絶対に許さん。だが今回だけは特別だ。教えを乞うからな。


「じゃあ、今度は目をつむって深呼吸をして」

「わかったよ」

「はい、息を吸ってー」


 吸う。


「吐いて」


 吐く。


「はい、吸ってー」


 すぅぅぅぅ。


「吐いて」


 はぁぁぁぁ。


 ーーパンッ!


「⁉」


 何が起こったのだろう。腹に衝撃を受け、軽く飛ばされた。ルイにやられたのだろう。腹がヒリヒリして痛みを感じている。起き上がりルイを抗議の目で見た。


「何をするんだ!」

「何って神性力をコントロールするための特訓だよ」


 ルイは真面目な顔をして言った。


「いいかい?君が神性力を操れていないのは自分の神性力を知覚できていないのが原因なんだ。だからまず、それを感じれるようにならなきゃ。そのためにボクの神性力を平手でぶつけてみたんだ」


 ルイはこちらに歩み寄り続けて言う。


「君は普通の加護持ちが出来ることが出来ない。だから普通じゃない方法で覚えるしかないんだよ。その方法がこれだ。人間は火に触れると熱さを感じる。水に触れると冷たさを感じる。なら神性力を感じたらってね」


 真面目な顔で言った。確かに僕の場合は荒療治が必要かもしれない。ルイはルイなりにしっかり考えてくれていたようだ。僕はルイを見直した。


「なるほど。でもそうするならそうすると事前に言っといてよ」

「えー、そんなことしたら面白くないじゃん」


 クスクスと元気な笑顔で言った。言い切った。僕はまたルイを見直した。悪い意味で。ただこんなやつでもちゃんと考えてくれているやつだとわかった。悪いやつじゃないのかもしれない。

 そこで僕は彼に言い忘れていたことがあるのを思い出す。


「そういえばさ、夜、村に来てゾンビを倒してくれて助かったよ。ありがとう」

「どういたしまして」


 ルイは僕に手に手を伸ばした。僕はその手を取り、立ち上がる。彼は意外と信用できるかもしれない。

 そして集合場所である村の入り口に行くと、ルイはリンに今回のことを全部喋った。リンとルイは二人揃って爆笑した。見事に恥をかいた。

 ぐぬぬ、やはりこやつ許すまじ…

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