その②


                ◇ ◇ ◇


「――で、それ買ってきたのか」

「う、うん」

「まぁ、アレだな」

「なによ」

 想像以上に反応が薄いエドを前に不機嫌になる私。こうなるのを分かっていたからお洒落に気を掛けてこなかったのに。これじゃリリアさんに乗せられた私が馬鹿みたい。これでもエドの好きそうなやつ選んだつもりなんだけどな。

「なにか言いなさいよ」

「……似合ってる」

「え?」

「すごく似合ってる」

「う、うん。ありがと」

 本当に私は馬鹿です。自分で感想求めたのにストレートな表現に恥ずかしくて下を向いてしまいます。

「おまえがそんな風に着飾ってるの初めて見たけど、うん。すげぇ似合ってる」

「あ、ありがと」

「でも普段のソフィーの方が俺は好きだな」

「え?」

「この前みたいに怪我人の相手をしてたら汚れるだろ。せっかく買ったのに汚したらもったいないだろ」

「エド……」

「着飾らなくても、おまえはいまのままで十分綺麗だ」

「……バカ」

 ボソッと呟く私はきっと頬が緩んでいたことでしょう。喧嘩はよくするけどエドは自慢の旦那様です。こんな風にはっきりと言われたことは数えるくらいしかないので自然と顔がにやけてしまいます。

「なんだよ」

「アリサさんたちに手を出したら許さないからね」

「出さねぇよ」

「そうだよねぇ。こんな美人で気前の良い奥さんがいたら他の人に手は出せないよねぇ」

「そういうの“自画自賛”って言うんだぞ。あと、往診行くじゃなかったのか」

「そうだった!」

 往診のことをすっかり忘れてた私は慌てて準備を始めます。その様子を見てエドは大きく溜息を吐き、仕方ないなと準備を手伝ってくれました。

「今日は村はずれの爺さんのところだろ? なら腰の薬も要るよな」

「ありがと。そこの棚にあるやつを出して」

「はいよ。なぁ、ソフィー?」

「なに?」

「いや。なにも」

「なによ。ちょっと往診行ってくるから留守番お願いね」

 お昼寝中のルークの子守をお願いする私は麦わら帽子を被り、数種類の薬が入った往診かばんを手に取ってお店を出ました。

(やっぱり私は私で良いんだよね)

 リリアさんやサラちゃんに触発されて背伸びしちゃったけど、私はいまのままで良いんです。私はエドの奥さんなんです。誰にも負けないステータスがあるんだから。

(このポジションは誰にもあげないんだから)

 夏も終わり近付く8月の午後。照り付ける日差しの中、得意げな顔の私は軽い足取りで往診先へ向かいました。

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