第7話 私は私のままで
その①
「まったく。あんたはなにかトラブルを持って来ないと気が済まないの」
「仕方ないじゃないですか。怪我人は専門外なんですから。それにその言い方、私がトラブルメーカーみたいじゃないですか」
「はいはい。悪かった」
「もー」
村で診た怪我人をセント・ジョーズ・ワートにあるハンスさんの診療所へ送り届けたのは村を出て3日目の昼前のこと。せっかく弟子が来たというのに適当な返事しかしないリリアさんを前に頬を膨らむ私ですが5年近くの付き合いです。このくらいは普通です。
無事に怪我人をハンスさんへ引き継げた私は街まで来たついでにとリリアさんの薬局に顔を出しました。連絡なしに来た“弟子”に驚く“師匠”でしたが私の服に血痕があったらしく、その汚れに気付くと「なるほど」と悟ってくれました。
「別にアタシは薬師だから驚かないけど、少しは気を付けなさい。っていうか、あの辺りに人を襲う獣はいないんじゃなかったの?」
「はい。けどごく稀に現れることもあるそうです」
「そう。ならあんたたちも気を付けなさいよ。ところで――」
「なんですか?」
「服に着いた血もそうだけど、もう少しお洒落したらどうなの」
せっかく良い旦那捕まえたのに勿体ない、そう溜息を付くリリアさんだけどお洒落とかに興味が無い私は笑って誤魔化します。
「ソフィア。あんた、素材が良いんだから勿体ないわよ。少しは着飾ることも覚えなさい」
「あまり華美なのは村じゃ浮いちゃいますよ。それに昔から興味が無いんですよね」
「あんたねぇ……」
私がお洒落に無頓着なのは知っているはず。なのにいまさら呆れ顔をするリリアさんは少しくらいサラちゃんを見習えと言います。確かにサラちゃんは何処で買ったのか(たぶんセント・ジョーズ・ワートだと思うけど)村では見かけない装いをしています。言うなれば清楚な街娘と言ったところでしょうか。間違いなくセンスは私より上です。
「あの子、白衣のせいで気付きにくいけどあんたよりずっとお洒落よ」
「別に良いんですっ。見せる相手はエドくらいなんですから」
「まぁ、ソフィアがそれで良いなら構わないけど。サラに盗られても知らないわよ」
「エ、エドはそんな人じゃないですっ」
私がいるのに他の人に手を出すなんてあり得ません。だってウチにはサラちゃんだけでなくアリサさんもいるんです。エドが人誑しならたぶん――ううん。絶対あり得ない!
「サラはともかく、アリサに盗られたらシャレにならないわよ~」
「エドは私の旦那様なんですっ」
「あとで付き合ってあげても良いわよ?」
「……お願いします」
「相変わらず手の掛かる子なんだから」
嗾けておいてなにをと思うけど、肩を竦めながらもどこか楽しそうなリリアさんを前にすると村へ戻る前に少しだけ寄り道していくしかなさそうです。
「あ、言っとくけどあたしは1メロも出さないからね」
「えぇ⁉」
「当たり前でしょ」
「そ、そこはほら“弟子へのプレゼント”ってことにしましょうよ」
「なにがプレゼントよ。ほら、あんたにちょうど良い店教えてあげるから行くわよ」
「うぅ~」
あまりの素っ気なさに頬を膨らませる私はこうなったらエドを驚かせよう、そう誓うのでした。
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