先輩薬師の後輩育成日記
織姫みかん
第1話 私が師匠?
その①
前略
元気にしてる? 一人前の薬師になって3年だっけ? 早いわね。エドとは上手くやれてるのかしら。せっかく見つけた旦那なんだから喧嘩ばかりしないで仲良くしなさいよ。
そうそう。あんたに会わせたいコがいるのよ。近いうちに村に行くからちゃんといなさいよ。
追伸 ハンスの奴から注文書預かってるから一緒に送るわね。
リリア・ゲーベル
村に来て8度目の春。私はリリアさんから届いた手紙に首を傾げました。会わせたい人って誰だろう。わざわざ村まで来るってことはそれなりの地位の人なのかな。
「エドは誰だと思う?」
「協会の人じゃねぇのか? おまえ、なにかしたんじゃないのか」
「そんな訳ないでしょ!」
薬棚の整理をしてくれている旦那様を前に断固否定する私。確かに昔は盗賊相手に診察したこともあったけど、いまはそんな危ない橋渡るようなことはしてないと思うんだけどな。
「まぁ、ルーク生まれてから大人しくなったよな」
「だから! それじゃ私がお転婆だったみたいでしょ」
「お転婆と言うか悪魔みたいな店主だったよな。おまえ、なにかある度に『お給金ゼロ』とか言ってたな」
「実際にゼロにしたことは無いでしょ」
「あったらとっくに辞めて――ルークどうした?」
エドの視線に釣られ振り返るとルークが私を見ていました。そっか。もうそんな時間だっけ。
「ママ、おなかすいた」
「ごめんね。すぐ作るね。エド、あとお願いね」
「あいよ」
「さ、キッチンに行こ。ルークはママのお手伝いしてくる?」
「おいコラ。それじゃ俺がなにもしてないみたいだろ」
「実際店番以外はお茶を淹れるくらいしかしてないでしょ」
「一応、この村の村長なんだけど?」
「パパは置いてキッチン行こうねー」
「ちょっ、ソフィー⁉」
背後でエドがなにか喚いてるけどそれは無視して息子と一緒にキッチンへ向かう私。結婚してルークが生まれてからも軽口を言い合える関係性は変わってません。お互いそれを変えるつもりはないし、これが私たち夫婦なんです。まぁ、ルークの教育的には問題があるかもですが、そこはウチの教育方針ということで。
(師匠は一人で全部してくれてたんだよね)
師匠は一人で薬局を切り盛りし、孤児だった私を育ててくれました。ルークの親になったいま、それが如何に大変だったのか思い知らされる毎日を送っています。
村で薬局を始めて8年。ちょっとキリは悪いけど、師匠が残してくれた薬局はなんとか潰さず、今日も家族3人仲良くやっています。
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