第37話 未踏領域『マグヌム・オプス』



 俺達は取り決めた方針通り、長期間放置されている依頼を中心に活動を開始した。

 どの依頼もシャルの言うように通常のデウスマキナでは対応が困難なものばかりだったが、幸い俺たちのデウスマキナであれば対応可能なものも多く順調に依頼をこなしていった。



 ――そして、そんな活動を続けて一年経とうという頃には、俺たちだけで対処できる依頼もほとんど無くなっていた。





「それで、次はどうする?」


「十分とは言えないけど、必要最低限の実績は積めたと思う。だから、次はいよいよ本命の依頼を狙うわ」


「本命?」


「これよ!」



 そう言ってシャルは、先程ギルドの端末からプリントアウトしてきたと思われる依頼書を突き付けてくる。

 しかし、身長差の関係でそのままの体勢では読み難く、俺は少し腰を落としてその依頼書の内容を読んだ。



「……大型生物の探索、及び駆除?」


「そうよ。大型生物って聞いたら、真っ先に思い浮かぶ場所があるでしょ」


「いや、すまない。思い当たらないな」


「……マリウス、アンタって本当に未踏領域について無知なのね」



 ……認めたくはないが、事実なので受け入れるしかないだろう。

 俺とて、開拓者を志すものとして未踏領域の知識を学ばなかったワケではない。

 可能な限り情報は仕入れたつもりだ。

 しかし、情報統制の行われているロームルス帝国では、他所の国の未踏領域の情報は得ようと思っても得られなかったのだ。

 情報を得られる機会など、せいぜい他国に進軍したときくらいなのだが、俺にはそんな余裕すらもなかった。



「まあ、帝国出身じゃ無理もないか。……安心なさい! 知識面に関しては、ちゃんと私が補ってあげるから! アンタはその分実務で貢献してくれれば十分よ!」


「……そう言ってくれると助かる」



 上から目線のような言い回しだが、これはシャルなりの気遣いのようなものである。

 もう一年近い付き合いなので、その程度の機微は理解できる間柄になっていた。

 ……俺はシャルのこういうところを、結構気に入っている。



「じゃあ、簡単に説明しようと思うけど、マリウスはメリダ王国についてはどのくらい知ってる?」


「名前は知っている。確か中立国家だったと思うが……」


「そう。メリダ王国はウチと同じ、どの連合にも属さない中立国よ。国力的にもウチと似たり寄ったりなんだけど、土地だけは広いことで有名ね」



 そう言ってシャルはタブレット端末を操作し、地図を表示して見せてくる。



「ここがメリダ王国よ」


「……ふむ、確かにそれなりに大きいな。これでよく中立を保てるものだ」



 これだけの土地があれば、他国から侵略を受けてもおかしくはない。

 帝国なんかは、真っ先に手を出しそうなものである。

 しかし、俺が軍人だった頃にそういった話は一度もなかった。

 ということは、やはり何かがあるのだろう。



「その理由は簡単よ。この国は、土地の半分以上が未踏領域に指定されているの」


「っ!? 半分以上、だと?」


「凄いでしょ? でも丸々一つの未踏領域でそうなってるワケじゃなくて、いくつもの未踏領域が点々と存在してて、その全部の範囲を合わせると大体そのくらいになるってことよ」



 とてつもなくデカい未踏領域があるのかと思ったが、そうではないらしい。

 まあ、それでも随分な話だが……



「そして、この未踏領域の管理を任されているということが、中立国として認められている理由でもある」


「……なるほどな。それで、この依頼書に記されている内容と、メリダ王国の未踏領域のどれかが関係あるってことか?」


「そういうこと。メリダ国には、大型の動植物が跋扈ばっこする未踏領域、『マグヌム・オプス』がある。この依頼書に書かれている大型生物っていうのは、その『マグヌム・オプス』から出てきたという可能性が高いとされているわ」


「ドラゴンという可能性はないのか?」



 この世界における大型生物の代表格と言える存在が、ドラゴンだ。

 だから、俺がこの依頼書を見て真っ先に思い浮かんだのもドラゴンだった。



「ドラゴンだったらドラゴンって書くわよ。さすがにドラゴンを見間違うことないでしょうしね」


「……それもそうか」



 確かにシャルの言う通り、ドラゴンであれば依頼書にはっきりとそう書かれているだろう。

 わざわざ大型生物などという曖昧な書き方をしているということは、具体的になんなのかまだ判明していないということだ。



「依頼書には大型生物が何なのか具体的には書かれてないけど、目撃情報としては虫なんじゃないかって言われてる。もし本当に大型の虫なのだとしたら、『マグヌム・オプス』の生物に間違いない」


「つまりその事実確認と、可能であれば討伐するというのがこの依頼の達成条件ということだな」


「ええ。でも、簡単な依頼じゃないわよ? この依頼も発行されて二年以上が経過しているのに、未だ何の成果も出せてないんだからね」



 そう聞くと、確かに一筋縄ではいかない依頼に思える。

 大型生物という非常に目立つ存在の正体を突き止められないというのは、一体どういうことなのだろうか。



「いずれにしても、まずは依頼を受けるところからね。行くわよマリウス」


「……? いつものように端末から受けるだけじゃないのか」



 ギルドから発行されている依頼は、基本的にネット端末から受けられるようになっている。

 昔のように、直接ギルドに出向く必要はほとんどなくなっているのだ。



「この依頼は危険度Bに指定されているわ。つまり、受注するには審査を受け、それに通る必要がある。だから今回はギルドに直接出向かなきゃならないの」


 そういえば、危険度B以上の依頼はギルドで審査を行ったうえで受注できる――とマニュアルに書いてあった気がする。

 どういった審査が行われるかは不明だが、恐らくそれに必要最低限の実績とやらが関わってくるのだろう。



 しかしギルドか……

 シャルとチーム登録をして以来行ってないが、やはり俺も行かなければダメなのだろうか……



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