第2話 ルーキーズカップ



 ヴァーミリオン王国の最南端、そこからさらに南に下った場所に広がる広大な山脈地帯。

 それが未踏領域の一つに数えられる、『サンドストームマウンテン』である。


 『サンドストームマウンテン』はその名の通り、砂嵐が吹き荒れる危険な山脈だ。

 砂嵐は、山脈の上層部に近付けば近づくほど濃く、激しいものとなる。

 特に高度1万メートルを超す上層部に至っては、全体が球状の砂嵐で包まれており、その全容は未だに解明されていない。

 この上層部こそが『サンドストームマウンテン』が未踏領域とされる核の部分であり、デウスマキナですら踏破できていない超危険領域である。



 現在俺は、その山脈のふもとに広がる平原地帯までやって来ていた。

 何故わざわざこんな場所まで来たか、それにはもちろん理由がある。

 それはこの地で、DランクからFランクまでの開拓者を対象とする、『ルーキーズカップ』が開催されるからだ。


 あのチラシには、この『ルーキーズカップ』の開催情報が記されていた。

 『ルーキーズカップ』は、開拓者の間ではそれなりに有名らしく、毎年一回必ず行われているらしい。

 全ての開拓者にとって、登竜門的存在であるこの大会は、多くの国々から出資を受けているらしく中々に羽振りがいいのが特徴だ。


 羽振りがいい、というのはもちろん賞金のことである。

 その賞金は、なんと総額1000万ダラーだというのだ。

 この金額は俺が国から支給された生活費、5万ダラーの200倍である。

 総額なので、流石にその金額全てを貰えるワケではないが、最優秀者にはその半分である500万ダラーが与えられる。

 これだけでも俺の生活費の100倍だ。

 さらに、2位でも300万、3位でも100万と続き、5位までは賞金が貰えるらしい。

 はっきり言って、ルーキー向けの大会としては破格と言える金額設定だ。



 この情報を見た時俺は、これしかない! と思った。

 参加条件はDランクからFランクまでで、更に開拓者になって3年以内のルーキーであること。

 俺は登録したてのFランクだし、この条件を余裕で満たしている。


 今の俺に必要だったのはこういうチャンスだ。

 この機会にまとまった生活費を稼ぎ、知名度を上げるしか俺に未来はない。


 俺は伊達に10年以上軍人をやっていたわけではない。

 デウスマキナの操縦についてはそれなりに自信があるつもりだ。

 目指すのはもちろん優勝。

 最悪でも、5位以内には絶対に入賞してみせる。



「……っと、あれが受付か?」



 気合を入れつつ平原地帯を進んでいくと、派手な装飾で飾られた天幕がモニタに映し出される。

 拡大してみると『ルーキーズカップ』の文字が見えたので間違いないだろう。

 チラシの地図は非常に大雑把だったため実は少し不安だったのだが、どうやら無事に辿り着けたようだ。

 俺はそのまま近付くと、天幕の100メートル手前くらいで音声信号を拾う。

 オープン回線は閉じていたため、慌ててボタン操作し回線を開くと、スピーカーから音声が流れだす。



『大会参加者の方でしょうか! 参加者の方はこちらにデウスマキナを待機させて下さい! 観戦の場合はこちらではなく、東の待機場で手続きを行ってください!』


「大会参加者だ。ここでデウスマキナから降りればいいのか?」


『参加者の方ですか。では、目の前の車両が案内しますので、その案内に従って機体を停止させて下さい』


「了解した」



 目の前の車両、というのは眼下にある装甲車のことだろう。

 俺は言われた通り装甲車の後を追い、指示された位置で機体を停止させる。



「少し出てくる。ロックを頼む」


『承知いたしました。マリウス、くれぐれも気を付けて』



 ああ、と返事をしてアームを降下させる。



(ただ受付に行くだけだし、気を付けても何もないと思うがな……)



 相変わらずウチの女神様は心配症らしい。


 俺がアームから降りると、先程の装甲車から軍服の女性が降りてくる。

 一瞬ドキリとしたが、紋章から察するにヴァーミリオン王国の兵士ではないらしい。

 もしヴァーミリオン王国の兵士だったら最悪俺の素性を知っている可能性があり、やや気まずい状況になっていたかもしれない。



「ようこそ開拓者殿、私は各選手の機体管理、及び警備を任されているダリアだ。早速だが、貴殿のデウスマキナの登録を行いたい。良いか?」


「ああ。しかし、登録というのはどうすればいい?」


「簡単だ。まずはこの端末に機体名、または機体コードを入力してくれ。あとは専用回線のコードもだ。こちらはその専用回線のコードで貴殿のデウスマキナを識別し、管理と監視を行う」



 成程な。確かに専用回線のコードは他のデウスマキナと被ることはないし、通信を行う関係上位置の把握なども容易いだろう。

 軍用の識別コードとは違い傍受などの危険性もあるだろうが、この大会でそんな心配をする必要はない。



「……これでいいか?」



 渡された端末に情報を入力し、ダリアに返す。



「機体名【ボックスワン】か、疎通確認もOKだ。基本こちらから通信を行うことはないハズだが、緊急の連絡などはこの回線を使用することになる。だからくれぐれもブロックなどはしないように」


「了解した」



 言われなくても、わざわざ大会運営の回線をブロックする大会参加者などいないだろう。

 大会規定には意図的に通信の妨害やブロックを行った場合、失格とすると記載されている。

 わざわざ失格になるリスクを冒して、そんな馬鹿なことをする奴はいないだろう。


 もう用は済んだようなので、軽く会釈してその場を後にする。

 受付のある天幕の方を見ると結構な列ができており、俺はうんざりしながらもその列に並んだ……



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