無名大陸旅行記〜異世界転移者が悩み苦しみ困りながら歩む大陸勃興の旅〜
@ko_gei
第1話 王と異邦人の画策
異世界に呼ばれた人間は、何かしら呼ばれた世界の人間の願いを背負っている。
魔王を倒すでも国を発展させるでも何でも、その願いは多種多様だ。願望は等しく、優劣もなく、ただあるからこそ別の世界で役目を終えたか、もっと大きい役目の為に送り出される人間が異世界へとやってくる、そう思っている。
だが、今回この異世界にやってきたのは願いのためでありながら、その実呼んだ人間の後悔を共に拭うための友として元いた世界から送り出された男だ。
【大陸そのものを一つの生き物として復活させる】
この願いを叶える旅路は、大国の王と異世界の男が望む希望までの話。
_______そして昼頃、玉座の間。
異世界にやってきた一人の男が、王の前に立った。その顔には、少しの困惑が伺える。
「では、そなたの名前から聞こうか」
「僕の名前は篠崎
「どこの国からやってきた」
「日本です。多分、この世界の国ではないでしょう」
その男は、困惑の色が隠せないながらも王の御前にてしっかりと受け答えを続けた。
目の前にいるのはラクシュリー・メイオールと呼ばれる、若くして王となった金髪のまさしく旧世代的な坊や。
異世界ものではよくみた光景だが、それゆえに彼は悩ましい事態となっていた。
「……余が貴様を呼んだのは他でもない。この国、メイオールの発展の礎となってもらいたい。異世界の知恵を駆使し、それが世のためとならば、いくらでも報酬は出そう」
「それは魅力的ですけど王様、妙に話が分かりますね」
「何?」
御石は一つ、今の話で疑問に思ったことがある。
何故、この王様は異世界転移ないし転生のことを知っているような口ぶりなのだろうかと。普通呼んだら、かなり大騒ぎになっていたような記憶がある。だけれどもこの王様はない、というより異世界の知恵とはっきり断定している。御石は、これに引っ掛かりを覚えた。
その知恵とやらが世界の根幹を支えるチートなのか、単純に現代の学術なのかは定かではないが、前者だった場合はここに至るまでの経緯をさっぱり覚えてない彼に取っては困ること間違いない。
「ひとつ質問をしてもいいですか?」
「申してみよ」
「他の国にもそういう異世界から来た人間は居ましたか?」
ラクシュリーは感心したような顔を見せた。その髪の向こう側から、興味をそそられたような視線を御石に向ける。見られた方は視線に慄くが、怯えて話も出来なかったらそれこそ臆病者と首を刎ねられそうな為に逆に恐怖が己の姿勢を正す勇気となっている。
「鋭いな。その観察眼も、スキルというものか」
「前例を知っているような口ぶりでしたから、もしかしたらご存知なのか、それとも前に呼び出したのではないかと思いましてね」
「そうだな。正確には知っている、というところだろうか。余の治める国の他にも無論国は存在するのだが、うちいくつかは同じく異世界から人を呼んだそうだ。だが、どれも失敗に終わった。初の成功例は我が国メイオールであり、無事に呼べたのはお前だ、御石」
なるほどなあ、と頷いた御石はそのまま話が逸れる前に呼ばれた意味を問う。
「話を戻しましょう。ラクシュリー王、僕は一体何をすればいいのですか?」
「そうだったな。いかん、あまり人と話すことがないから興奮してしまった。
御石、お前には最初に言った通りこの国の繁栄のため尽力してもらいたい。できれば、他の国をメイオールより少し下の強さまでに上げて欲しいのだ」
「メイオールによる侵略、世界統一が目的ではないのですか?」
ラクシュリーは頷いた。
「このメイオールは世界最大の国であり、魔術・技術においても最高峰だ。だが、他の国はばらつきがあれど全てこの国以下。それは余としても困る」
「経済圏は大きくなればなるほどいい、というわけですね?」
「他国にはこの国にはない希少な物質こそあれどそれを生かし切る為の技術を持ち合わせておらん。無論その素材を活用するだけならそのまま売ったりすれば金になるだろうが……それは生産ではない、狩りに等しい行為だ」
いずれ希少物質が採り尽くされればその国の価値など塵同然。土地さえ死んでなければ農業等の役割を与え第一次産業で活用できるのだが、高度な技術を持ってない以上はいずれ窮地に立たされる。基礎技術が出来ても発展ができなければ結局は土地の無駄使いという評価に落ち着いてしまう。
メイオールの王であるラクシュリーはその現状を憂いた。現在大小合わせて10の国があり、その内で最高峰の国の王でありながら他国のことを考えるなど馬鹿同然ではあるものの、この状態を放置することは枯渇した大地での無益な戦争を引き起こし、根本的な解決法などないからこそ永遠に続き、その余波はいずれメイオールさえも食い尽くすと考えた。
ただ、それを解決するだけの方法は思いつかずにいたから、こうして異世界の人間を呼び寄せたのである。
他の国は"自分の国を強くするため"に異世界からの人間を呼んだ。だが、強大すぎる前時代の危険な力を現代人の体が適応できるはずもなく瓦解。強大な力、現実改変は繋がっている世界全てに干渉し、それを理解して処理しながら変更をする。いつになっても出来そうもない制御をたかが外から呼んだだけの人間には無理な話であり、宇宙さえ理解し始める時代でもない世界の人間はそれすらも分からずにただ異世界人を呼んでは無駄死にさせていた。
ラクシュリー・メイオールは"参考人かつ力ではなく知力と善意を持った人間"が出ることを祈ったからこそ篠崎 御石という人間を呼び出すことに成功。特別な力ではなく、同じ人間として立ち、また一緒に問題に立ち向かう同志を呼び出すというだけなら何も負担が掛かることもない。
その同志に、王様は自身の思惑を話す。
「内政干渉であることは重々承知はしている。だが、このままでは大陸ごと終焉を迎えてしまう。それは人間という生き物ではあってはならないことだと、余は思っているのだ。故に技術を向上させ、他国同士の戦争を終わらせ経済圏の完成を目指したい」
「ふぅむ。僕は何らかしらの方法を以ってとりあえずその国にしかない、産業やら何やらを作ればいいと」
「だが、パワーバランスを崩すのはあまりいいことではない。だから、できれば全体的に上がるように心がけてくれ。この国が最大の貿易国である以上、メイオールより全体的な戦力は少し下、その上で産業では上回る分野がある、そういうふうに心がけてくれ」
「簡単に言ってくれますね、おおまかなプランは立ったのはありがたいのですが、細かいところどうしようか、何か考えてますか?」
「……」
「考えてないですね?」
ラクシュリーは頷いた。若さゆえに理想はあり、そのビジョンも割と見えてはいるのだがその理想を補強するだけのアイデアがない。
だが、それを一緒に考えるために御石が召喚されたのだ。
「御石、お前も考えるんだ」
「え〜困ったなあ」
御石は頭をかかえる。
何をどうすれば、そんなとんでもない案を実現できるのか。そもそもメイオール以外の国は争っている、この状況からして肩入れすることは悪手。とはいえ、何の立場もない人間が一からやりますでは遅すぎる。人の人生を考えればメイオール以外の一つの国に貢献して終わり、になってしまう。
とは言っても自分には何の特殊能力もない。催眠術とかあったら困らないのだが、果たしてそれがいい結果を招くかどうかと言われた際には少し困る。言いなりになる、ということは本心を聞くにあらず、何より頭の中にしかない展望を聞き出せないのは非常にまずい。その土地で生まれ育った人間の所感は捨て難い。
だが、依然として他国の領土に入るという難易度は高いまま。
「戦争、戦争か」
戦争をしているならば大体の国営は混乱期に入っていると言っていい、入り込む隙はあるだろう。だが、その隙間の正体が……と頭の中を巡らせた時に、王に無理難題を押し付けられた男は一つの答えに辿り着いた。
「僕が武器商人になりますか?」
「ほう」
「メイオールの武器を売りましょう、魔術と技術が高いのであれば高値で売れるはずです。その後に国の内見をして、技術を高める方向でいけば、もしかしたら産業の方にも手を出せるはず」
「戦争の道具が産業を強くする、と?」
御石は頷いた。
「たとえば、魔術が盛んな国には魔術の書を売ってみましょう。武芸が盛んな国には武器を売ってみましょう。一般兵士が使っているもの、それさえあればおそらくは食いつくはずです。《強大な王国の先鋭的な技術》は、この文言だけでも魅了される」
現実でも、テクノロジー系はアメリカ企業のものが多く注目されているだろう。素材に関しては日本・韓国の半導体なども視野に入るが、現実で触れる機械、パソコンやスマートフォンの多くではアメリカ企業のものの人気が根強い。兵器においても、日本人の視点にはなるが海外の銃のほうが言及されることは多い。
つまり過去の日本と同じ立ち位置になるメイオール以外の国、この大陸でそれを向こうの国の人間にメイオールのものを見せることで取り入り、ついでに技術援助をする。これが御石の出した計画だった。
「こちらの物を売った後であれば、技術を与えた手前入り込めるかもしれません。何より、本来技術というのは最終的に民に還元されるもの。で、あれば城下町にでも入りこめば尻尾は掴めますよ」
「では、商売人として領地を踏むことで理想を果たそう、と?」
「今思いついた最善の案はそれです。メイオールが一番の国であり、他の国がほぼ同等であるならば、ここでの貿易を損なわないようにしつつ、この国の技術の一部ずつを分け与えることで差を縮めながら得意分野を生み出させましょう」
「そしてメイオールはこれまでに蓄えた知識を十全に活かして価値を適切に広めることで大陸経済の中心を担い流通の要になり、完璧国家ではなく貿易国家として再誕する」
「名付けて《メイオール大陸計画》です」
御石が示したプラン。
今は物資以外全てがあるメイオールは、もはやその完璧ぶりから残り9つの国から戦争対象から外されていた。この国に攻め入るには分が悪すぎるというほど、メイオールとそれ以外の差は広がっていた。
すると、物資以外に特質するものがない他の国同士で戦い、奪うことでせめてもの発展の芽を残すことが目的となり、結果が戦争であるということになった。先述した異世界転生ないし転移の結果は、素早く敵を制圧するための兵器を欲した結末でもあった。
御石は、まず先んじて技術を流すことによって相手の守りを固めて、その内に国の特産品や技術を育てる。メイオールですらなかった物を作り上げたら、自分がそれをこの国に戻って売りに行く。認められれば、そのままこの国とその国でその特産品を理由に条約を結び、同名とすることで発展と保護を促す。
これを大陸間でやることで、メイオールが全ての基礎となり物品の価値を正しく決めれる人間が多くいるのを利用し様々な国を結ぶ貿易国家として生まれ変わり、他の国も独自の産業を起点として発展する。すると、国際的な経済強弱を薄めかつ貿易を理由に戦争から商売による競争にシフトさせることが可能。
そうしてラクシュリーが憂いていた不毛な争いを終わらせて、根本的な争いを取り除く。
この一連の企画をメイオールが主軸になることから《メイオール大陸計画》と名付けられた。
ラクシュリーと御石はそれぞれの顔を見て、笑みを浮かべる。
「貴様を呼んで良かったな」
「光栄です、ラクシュリー王。私もあまり自信はなかったのですが、気に入っていただけたようで何より」
「では、その計画を行おう。御石には商人として入り込んで、各国の底上げをお願いする」
「僕のできる範囲で尽力しましょう、ラクシュリー王」
正式に、御石はラクシュリー王の野望の一兵となった。
そうなれば、と王は一つ。紙を取り出して、歩いてから御石に渡す。
広げればそれは地図であり、大陸の右端は、大きなメイオール王国が映し出されていた。御石に広げさせた地図を、横から覗き込むラクシュリー王は、メイオールの左上を指す。
「まず手始めに貴様にはこの国に行ってもらいたい」
「この国?って……えっと、フィフって書いてありますね」
「そう、魔術の国フィフだ」
「魔術の国っていうくらいですからここよりも魔術が盛んなんじゃ」
「メイオールが残念ながら一番だ」
「それはまた何故」
「フィフは土地開発に厳しすぎる制限がある、故に発展がこちらより出遅れた公園や空き地がなければ子供が遊べないのと理由は同じだ」
ラクシュリーは、フィフの現状を話し始めた。
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