異邦島
谷合一基生
第1話 うってつけの島
いわゆる「終わりの島」で3日目の朝を迎えられたことを非常に嬉しく思う。
僕は典型的に閉じられた世界を嫌っていたが、この島は違う。想像もできないほどに周りに開かれていて、しかし終わっている。終わりに終わり終わりまくっている。
この島で古くから生きている者の素性を僕は知らない。
目的地までのタクシーの中から、この島に来て初めてのまともな建物が見えてきた。
「ここだけですよ、新しい建物があるのは。」
タクシーの運転手はさすが見慣れた景色だから淡々と運転操作を行っている。
20年前この島では大虐殺と呼べる事件があった。たったの20年だ。ほとんど僕が生きた時間と等しい。事件の名残というか、今では島中に空き家が点在している。誰も関心を持とうとしないというか、触れたくないものになっているのだろう。この辺りの開発されたエリアはそういった負の遺産を覆い隠すためのものだろうか。消し去りたいけど祟りや"元住民"の反発を恐れて新しく建てて忘れようとするしかない。何て皮肉なことだろう。
僕はこの島に「自殺」をするためにやってきたのだが、少しばかりこの島に興味が湧いて、実行に移さずもう3日目となる。何でこの島を選んだかって?それはこの島が開かれているからだよ。
20年前の事件のこともあってか、この島はよくテレビやネットで取り上げられる。オカルト系や心霊系、時には事件のドキュメンタリーまで。そのほとんどが真実ではないだろうけど、僕がこの島のことを知ったのも実はネット番組からだ。「ほとんど誰も住んでいない、しかし発展した地区がある島"アナムネス"」そこでは20年前の事件が取り上げられていた。
その時に思ったんだ、誰にも必要とされない、ただの空気みたいに扱われ、使うときだけ使われて楽しい時は捨てられる存在の僕が、世界に対して最後に抗える方法。
「自殺」だ。僕がこの島で大胆に死ねば、メディアは20年来の悲惨な事件として取り扱わざるを得ない。こうしてニュースは国中に知れ渡り、僕は生きた証を残せるだろう。そう、この島は「自殺」にうってつけだ。
異邦島 谷合一基生 @yutakanioukasurukessya
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