第20話 百合ップル、騎士団から過剰な歓迎を受ける

 夕食後、オレはメンドークサと話し合う。

 

 あの生徒会長は何者かが気になる。


「まさかゲームマスター、運営とか言わないよな?」


 ネットゲームの場合、たまにスタッフがプレイヤーに紛れ込む時がある。

 

「キャラクターの一人です。ゲームマスターのポジションで言えば、ワタシに当たります」


 スタッフではない、と。

 

「あと、生徒会長が話していたことな。お前はどう思う?」


 オレが尋ねたのは、クーガーがティナの一族を狙う目的だ。


 マーゴット・クーガーは、ディートマル王子と名前を変えて、ティナの命を狙っている。

 ゲームの設定はそうなっているのだが、理由までははっきりしていない。


「わかりかねます」


 メンドークサに尋ねても、だめか。

 

「それに、ワタシはネタバレできない立場にあります。あなたが知っている情報はお教えできますが、基本的に先のシナリオなどはお教えできません」


「指示は可能か?」


「できます」


「ならば、オレがいない間に、調査して欲しい」


 こちらでも、探りを入れる。


 あるいは、このダンジョン攻略こそ、国家間が衝突している原因が判明するイベントなのかもしれない。




 翌朝、出発の準備をする。


「ユリウス王子。お一人で、大丈夫ですか?」


「慣れているさ」

 

 ダンジョンイベントでは、ユリウスは常に一人で行動していた。

 今回も、同様である。


「では、メンドークサ。行ってくる」


「お気をつけて、王子」


「調査の件、よろしく頼むぞ」


「かしこまりました」


 オレは、馬車を走らせた。

 

 しばらくして、ティナの馬車と合流する。ここから、ティナと合同で動く。


 トマ王子の馬車と、待ち合わせ場所で一緒になった。

 ああ、並走する馬車を眺めているだけで、てぇてぇ。

 

 馬車で数日かけて、魔族のいるというダンジョンに到着した。


 なんの変哲もない、ただの岩山洞窟である。

 しかし、何者も受け付けない圧迫感が漂う。


「敵が全然、出てこなかったな」


 快適な、馬車の旅だった。

 ゲーマーとしては、少々物足りなかったが。

 

「生徒会とカインフェルトの騎士団が共同で、煤払いを担当した。あとは聖女ティナ殿の力が必要だ」


 森の入り口付近に、騎士団たちが簡易の詰め所があった。ここで、ダンジョンから出てくる魔物を見張っているという。


「皆よ、ご苦労であった。ティナ殿を連れてきたぞ」


 ガセート先輩が、騎士たちをねぎらう。


 騎士たちはティナを見ると、一斉にひざまずいた。ロザリオを手に、祈りを捧げている人も。


「あ、あなた。少しじっとしていてください」


 一人の兵士の下へ、ティナは歩み寄る。


「ヨロイを脱いでください。あなたからは、血の匂いがします」


 ティナが、兵士のアーマーの留め具を外した。


 兵士の脇腹、アバラ辺りに切り傷が。薬草でごまかしているが、治癒にはまったく足りない。


「これくらい、どうってことはありませんよ。聖女様」


「ダメです。骨が折れているじゃありませんか。動かないで」


 ティナが、兵士の傷に手を添える。

 パワワ~と暖かい光が、兵士のアバラが治っていった。


「もう大丈夫ですよ」


 ティナが手を放す。


「すごい。哨戒任務の間はガマンするか、と、あきらめていたのに」

 

 また、兵士たちがティナを崇め始めた。


 

 ここまで、ティナは慕われているんだな。ゲーム内でのイベントでは、あまり見られなかった光景だ。

 

 迫害こそはないものの、ティナは聖女という要素が強すぎて人が寄り付かない。

 あまりにも聖女として完成されすぎていて、民草は見ているだけで自己肯定感が下がるのだ。自分の邪悪さを見せつけられる気がして。


 ティナ単体もたしかにすばらしいが、「トマ王子との連携でこそ、彼女のよさは光る」と個人的には推したい。


 人間が作った芸術品がティナだとすると、トマ王子とのカップリングは、神が作ったオーパーツである。


 てぇてぇ。


 

「妄想にふけっているところ済まないが、ユリウス王子、ダンジョンに入ってくれないか?」


 ガセート先輩から呼びかけられて、オレはハッとなる。


 すでにティナたちは、ダンジョンの入口で待っていた。


「おお、行こうか」


 気を取り直して、ダンジョンの中へ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る