赤ちゃんがやって来た

 「はぅ~。可愛い~」


 ここは自宅(城)の寝室。

 今寝室のソファで、私とフォル。それに新たに加わった小さな家族の三人で寛いでいる。

 今は赤ちゃんに授乳している。私のお胸……では勿論なくて、フォルのお胸を一生懸命に吸っている。

 フォルのお胸は慎ましやかなものだけれど、授乳のこの時期は少しふっくらしているので、服を着ていても女性だと判る。フォルは恥ずかしがって「違和感半端ない」とかボヤいているけれど。

 

 「ふわ~。小っちゃい~可愛い~」

 「くす。さっきからそればっかりだね」

 「だって、可愛いんだもん」


 ぷくっと頬を膨らませると「そうだけどね」と同意してくれたので良しとする。

 

 「しかし本当にびっくりしたな~初夜を知らないって知った時は」

 「そ、それは忘れて~」


 満足して口を離した赤ちゃんを肩に担いで、背中を優しくポンポンと叩くフォル。そのフォルの肩口顔を埋めて、赤い顔を隠すと、くすくす笑われた。うぅ、だって誰も男女のそういうの教えてくれなかったんだもの。


 「でもさ、そういう行為を知らないでどうやって赤ちゃんが生まれると思っていたの?」

 「姉上達も義母上達も、男の子はコウノトリが運んできて、女の子はお花の蕾から生まれるって教えてくれたの」

 「……うん。アンの純粋無知な偏った知識は彼女達の努力の賜物だね。今度ゆっくり御礼申し上げに行くよ」


 え?何それ、お馬鹿でお礼って私はどうしたらいいの?

 複雑な心境でいると、げっぷを終えた赤ちゃんを私に預けたフォルが頭をなでて「ちゅ」ってしてくれる。

 私は赤ちゃんの顔を見ながらあやすのでフォルが横から好き勝手に「ちゅっちゅ」してくる。嬉しいから止めない。

 赤ちゃんはお腹がいっぱいだからすぐに瞼が落ちて眠ってしまった。


 「ふふ、アンに似た可愛い寝顔だね」

 「うん、ルトに似た可愛い寝顔だわ」


 お互いに顔を見合わせて笑ってしまう。


 「この子の名前、いい加減決めないとね」

 「そうね。判っているのだけど……なかなか候補から絞れなくて」


 沢山考えてある名前候補を思い浮かべながら、これも捨てがたいあれも捨てがたい。っと思考の渦に引き込まれる。


 「どんな候補があるの?」

 「あ、それなら紙に書いてあるの。

 エイ、あの紙を持ってきてくれる?」

 「はい、こちらに用意してございますよ」


 こんなこともあろうかと所持していたエイがすぐさま持ってきてくれた。

 出来る侍女を持った私は幸せ者だ。


 「どれどれ。

 わ、これはまたいっぱい考えたね」


 沢山の名前の欄と沢山のバツ印を見て、一つ一つ確認していくフォル。


 「!これなんて良いんじゃないかな」


 フォルが指さしてくれたのは、私も気に入っていてトップ3候補に入っているものだった。


 「フォルも気に入ってくれたならそれにしましょ」


 眠る我が子を覗き込み、そのもちもちホッペを優しくつつくフォルが慈しむ笑みで赤ちゃんに語り掛ける。

 私も抱く我が子を覗き込んだので、フォルと頭がコツンと触れた。


 「今日から君は、マトフィグリオだ」

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