⑤
日曜の午前10時。
白修館高校の空手道場に、空手強豪N校の空手部員30名ほどが整列している。
これから練習試合という名の強化試合が行われるのだ。
「何だか、見てるこっちが緊張するね」
「……そうだね」
自分が通う高校と言っても、一人で見学するのはさすがに不安で。
雫はちとせと咲良に声をかけた。
あいにく咲良はバイトが入っていて来れなかったが、ちとせが生で観てみたいと言ってくれて、今に至る。
全開放されているドア部分から中を覘く雫とちとせ。
発狂に近い気合の声が響く中、雫の視線は頭一つ飛び抜けている男子生徒に向けられている。
「津田くん、やっぱり大柄だね」
「……ん」
肉体派の空手男子と言っても、世界に比べたら日本人は小柄な方だ。
その中でも虎太郎は大柄な方で、アクション俳優かと思うほど、端正な顔つきである。
「津田くんと話してる子も結構イケメンだね」
「彼が松永くんっていう子かも。親友も空手部だって言ってたから」
「親友と同じ部活とか、青春真っ只中で羨ましい~」
初めて見る生の空手に目を輝かせるちとせ。
『暑い~』と文句を言いながらも、技が決まる度にキャッキャと喜んでいる。
彼氏持ちというだけでも羨ましいのに、ちとせは可愛いうえに華奢で小柄だ。
自分に無いものをたくさん持っているちとせの方が、雫は羨ましいと思う。
「あっ、次津田くんかも…」
「……そうみたいだね」
一礼した彼。
対戦相手の男子も結構な体格だ。
「漫画とかでよくある回し蹴りみたいなのって難しいの?」
『勝てますように…』と念じながら見守っていると、突然ちとせが呟いた。
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