日曜の午前10時。

 白修館高校の空手道場に、空手強豪N校の空手部員30名ほどが整列している。

 これから練習試合という名の強化試合が行われるのだ。


「何だか、見てるこっちが緊張するね」

「……そうだね」


 自分が通う高校と言っても、一人で見学するのはさすがに不安で。

 雫はちとせと咲良に声をかけた。

 あいにく咲良はバイトが入っていて来れなかったが、ちとせが生で観てみたいと言ってくれて、今に至る。


 全開放されているドア部分から中を覘く雫とちとせ。

 発狂に近い気合の声が響く中、雫の視線は頭一つ飛び抜けている男子生徒に向けられている。


「津田くん、やっぱり大柄だね」

「……ん」


 肉体派の空手男子と言っても、世界に比べたら日本人は小柄な方だ。

 その中でも虎太郎は大柄な方で、アクション俳優かと思うほど、端正な顔つきである。


「津田くんと話してる子も結構イケメンだね」

「彼が松永くんっていう子かも。親友も空手部だって言ってたから」

「親友と同じ部活とか、青春真っ只中で羨ましい~」


 初めて見る生の空手に目を輝かせるちとせ。

『暑い~』と文句を言いながらも、技が決まる度にキャッキャと喜んでいる。


 彼氏持ちというだけでも羨ましいのに、ちとせは可愛いうえに華奢で小柄だ。

 自分に無いものをたくさん持っているちとせの方が、雫は羨ましいと思う。


「あっ、次津田くんかも…」

「……そうみたいだね」


 一礼した彼。

 対戦相手の男子も結構な体格だ。


「漫画とかでよくある回し蹴りみたいなのって難しいの?」


『勝てますように…』と念じながら見守っていると、突然ちとせが呟いた。


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