第14話
五月十九日、午前中。雲一つ無い晴天。なぜか、気味が悪く見えてしまう。街は大人が居ないせいで機能していない。子供が泣きながら親を探していたり、高校生ぐらいの男女グループが無人のスーパーで食料などを盗んでいる。この状況は悲惨と言う他ない。
聖飛と直哉はその光景を目の当たりにしつつ、学校に向かっていた。
「なんか。胸が痛いな」聖飛はボソッと呟いた。何も出来ない自分が歯痒い。
「そうだな」
「早く行こうぜ」
「あぁ、見てられないもんな」
聖飛と直哉は走った。
清流高校の校門前。聖飛と直哉は周りを見渡し、不審な人物が居ないかを確かめている。
不審な人物が居ないのを確認し終えた二人は校門をくぐり、校舎の中に入った。
校舎内は休日の学校より静けさがある。そして、夜の学校より、不気味さが漂っている。
小さな足音でも校舎中に響き渡りそうだ。
二人は階段を上り、二階の職員室に向かった。二人は職員室のドアを開けて、中に入った。入った瞬間、生暖かく、じめっとした空気が二人を包んだ。
「気持ち悪りぃ」聖飛は率直な感想を述べた。
「換気しようぜ」
「そうだな」
二人は職員室中の窓を開けた。
「これでマシになるだろ」直哉は言った。
「だな。なんか、手掛かりがあるか探してみようぜ」
「おう」
二人は職員室内の教師達の机の上や、机の引き出しの中などを探し始めた。
「何もねぇな」
「驚く程にな」
二人は粗方探して見たが、手掛かりになりそうな物を見つけられていない。
「早く帰らねぇか」聖飛は周りを気にしながら提案した。
「どうした?ビビってんのか?」
「ビビッてねぇし。お前はどうなんだよ?」聖飛は強がりながら訊ねた。実はビビッているのだ。こう言う気味が悪いのは苦手だ。
「ちびりそう」直哉は真剣な顔で答えた。
「マジ?」
「冗談に決まってるだろ」
「そ、そうだよな」
「でも、まぁ、気味が悪いのは確かだな」
「分かる。誰も居ない学校って気持ち悪い」
「普段なら授業中の時間だもんな。今」
「……なんか、一昔前の映画みたいだよな。この状況」
「そうだよな。空想が現実になってるみたいだよな」
「これが夢なら覚めてほしいレベルだよな」
直哉は聖飛の頬を急につねった。
「痛ってぇな。何すんだよ」聖飛は少し赤くなった頬を押さえた。
「でも、現実なんだよな」
「俺にもつねらせろ」
「嫌だ」直哉は走り出した。
「つねらせろ」聖飛は直哉を追っている。
「絶対に嫌だね」
「なんだと?」
「捕まえるもんなら捕まえてみろよ」
「あ、カチンと来た。絶対つねってやる。10回はつねってやる」
――二人は五分程、この争いを続けた。そして、二人は息を切らせて、立ち止まっていた。
直哉は大槻の机の上に手を置いた。
「……これ以上無駄な体力消費するの止めようぜ」直哉は提案した。
「仕方ねぇな。止めてやるよ」
「おう」直哉はふと、大槻の机の上を見た。
机の上には予防接種の日程が書かれた紙があった。
「あのよ。大人が消えたのって、ユートピアが開園してからだよな」
「まぁな。市長が絡んでるのはほぼと言うか確実だしな」
「……じゃあ、なんで俺達は無事なんだ?ユートピアに行ったのに」
「……それはあれだろ。子供だからじゃねぇか」
「なんで大人だけなんだ」
「……それは」
直哉は大槻の机の上の予防接種の日程が書かれた紙を手に取り、聖飛に見せた。
「もしかして、予防接種と関係があるって言いたいのか?」
「そうとしか考えられない」
「……いや。でもよ……そんな事ってあるはず」聖飛は一つの可能性を思いついたようだった。
「たぶん、俺とお前が今頭に浮かんでる事は一緒だと思う」
「……でもよ。そんな映画みたいな事って」
「もう。映画みたいな状況になってるだろ」
「……だよな。それじゃ、大人達が受けた予防接種のワクチンには大人を洗脳するような何かが入っていたって事か?」
「そうだと思う」直哉は頷く。
「……最悪だ」絶望的な状況だと、聖飛は思った。
「そして、きっと大人達はユートピアに居る」
「なんで、そんな事分かるんだよ」
「考えてみろ。クリティアに居る大勢の大人達を収容出来る大きい施設はユートピアしないだろ」
「……たしかに」
「行くべき場所が決まったな」直哉は手に持っている予防接種の紙を握り潰した。
「……そうだな」
聖飛と直哉は学校を出て、隠れ家の近くまで来ていた。
二人は悲観的な表情で歩いている。仕方が無い。どれだけ、元気を出そうとしても、事実に近い答えを導きだしてしまったのだから元気は出なくて、当たり前だ。
聖飛と直哉は小屋の前に辿り着いた。
聖飛はズボンのポケットから鍵を取り出し、ドアの施錠を開け、ドアノブを掴んだ。
「……本当の平和ってないのかもしれないな」直哉は言葉を吐いた。
「言えてるかもな」聖飛はドアノブから手を離した。
「俺達は市長達が作ったまやかしの平和を信じてたんだな」
「……だな」
「悪い。変な事言って」
「いいよ。けど、中に入ったら、俺らはしっかりしないとな。あいつらの為にも」聖飛は直哉の肩を叩いた。自分自身も受け入れられない事が多い。けれど、自分達が他の三人に弱い部分を見せてしまえば不安を煽ってしまう。辛いけど、しっかりした姿を見せるのが自分達の役割だと思う。
「そうだな」
「おう」
「お前に元気付けられるとは思わなかったよ」
「どう意味だよ」
「冗談だよ……ありがとな」直哉は照れくさそうに言った。
「お、おう」
「入ろうぜ」
「だな」聖飛はドアノブを掴み、回した。二人は中に入った。
聖飛はドアを内側から閉め、直哉は隠れ家に行く為に隠し扉を開けた。
二人は階段を降りる。
「帰ってきたぞ」
「ただいま」
紅礼奈達はテーブル前の椅子に腰掛けていた。
「おかえりなさい」
「お疲れ様です」
「収穫はあった?」紅礼奈は訊ねる。
「……あったと言えばあったかな」直哉は答えた。
「何よそれ」
「どう言う事ですか?」
「ちゃんとした証拠はないけど、大人達が居る場所の検討と大人達が姿を消した理由は分かった」
「本当ですか?」
「本当だ」聖飛は頷く。
「じゃあ、まず場所を教えなさいよ」
「ユートピアだ」直哉は言った。
「その根拠は?」葵桜は訊ねた。
「クリティアに居る大勢の大人を収容出来る施設はユートピアしかない」
「まぁ、ユートピア以上の広い施設はクリティアにはないもんね」
「じゃあ、大人達が姿を消した理由は?」
「……予防接種だ」
「予防接種?」
「どう言う事よ」
「あ、そうか。大人達しか予防接種を受けていない」賢斗は椅子から立ち上がって、言った。
「その通りだ」
「言われてみればそうね」
「……でも、そんな事って。いや、映画じゃないんだし」葵桜は何かに気づいたようだ。
「そう思うだろ。でもよ。そうじゃないと辻褄が合わないんだよ」聖飛は言った。
「映画みたいな事って何よ」
「洗脳だよ」
「嘘。それって、だいぶヤバイじゃん。いや、かなりヤバイじゃん」
「あぁ、かなりヤバイ」
「……マジで」紅礼奈は深い溜息を吐いた。
「市長はだいぶおっかない奴ですね」
「賢ちゃん。おっかないで済むレベル超えてるよ」
「……でも、一人洗脳されていない人が居る」聖飛は言った。
「誰よ」
「これから会う動画の人だよ」
「あ、そっか」
「だから、動画の人と手を組もうと思う。組んでくれるかは分からないけど」
「でも、それってさ。危険じゃない」
「現時点で考えられる最善の手段だから仕方がない」
「俺も組んだ方がいいと思う」直哉は聖飛の発言に賛同した。
「私も賛成」
「そうですね。僕もです」
「もう、わかったわ。でも、危険だと感じたら逃げなさいよ」紅礼奈は言った。
「分かってるよ。なぁ、賢斗」
「はい。やばかったら逃げますから。全力疾走で」
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