第11話

清流学園の裏門。校舎からは騒いでいる生徒達の声が聞こえる。

 聖飛達は、教室から抜け出して、賢斗が来るのを待っていた。すると、リュックを背負った賢斗が走って、近づいて来た。

「すいません。遅くなって」賢斗は膝に手を置き、息を切らしている。

「いいよ。全員揃ったし行くか」聖飛は賢斗達に同意を求めた。賢斗達はそれぞれ返事をした。

 聖飛達は裏門を開けて、外に出た。

 学校の周りには誰も居る気配がしない。普段なら、学校近くの会社の社員や近所の主婦が歩いているはずなのに。

 街は異様な雰囲気を醸し出している。大人の姿は全く見えず、スーパーや飲食店などの店の中の電気は付いてない。まるで、ハリウッド映画に出てくるゴーストタウンかのようだ。

「誰もいないな」聖飛は街の姿を見て、言った。フィクションでしかありえない状況を受け止める事ができない。それほどのキャパシティーは持っていない。夢なら、一秒でも早く覚めて欲しい。

「そうね」

「気味が悪いわ」

「聖飛、早く行こうぜ。何が起こるか分からないし」

「僕も同意見です」

「だな」

 聖飛達の足取りが速くなった。仕方が無い。出来るだけ、早く落ち着きたいのだろう。落ち着かないと冷静な判断も何も出来ないはずだから。


 北区と東区の境にある魚港。聖飛達は周りを気にしながら、隠れ家がある小屋に向かっていた。

 小屋の前に着くと、聖飛がズボンのポケットから鍵を取り出して、ドアを開けた。聖飛達は中に入った。そして、聖飛が電気を付けた。

 直哉と賢斗が中央にあるテーブルを退ける。その後、葵桜が絨毯を剥がす。そして、紅礼奈が隠し扉を開けた。

「何があるか分かんないからさ。電気消した方がよくないか?」直哉が提案した。

「だな。俺が電気消すから、先に下へ行って電気点けてくれよ」

「了解」

 直哉達は階段を降りた。

「電気点けたぞ」下から、直哉の声が聞こえる。

「分かった」聖飛は返事をして、電気を消した。部屋の電気を消したせいで、隠れ家からの光が少し漏れている。

 聖飛は急いで、部屋中央の隠し扉の中に入り、内側から隠し扉を閉めて、階段を降りた。

 先に隠れ家に降りていた他の4人はぐったりした顔で、椅子に座っていた。

 聖飛も溜息を吐きながら、椅子に座った。

「ちょっと、いや、だいぶ変な気分ですね」賢斗は言った。

「そうだな。この街が正常じゃないからな」

「あのさ。これからどうすんの?」

「だよね……手掛かりないしね」

「手掛かりはある」聖飛は断言した。

「はぁ?マジで言ってんの?」

「あぁ、マジで言ってる。なぁ、賢斗」

「あ、はい。でも、一筋縄ではいかない手掛かりで」

「どう言う事?賢ちゃん」

 賢斗はリュックから、ノートパソコンを取り出し、電源をつけて、男の告発動画を画面に表示させた。

「この動画知ってます?」賢斗は聖飛以外の三人にノートパソコンの画面を見せた。

「知ってるけど。告発動画だろ。でも、これがなんだよ」直哉は画面を見て、訊ねた。

「僕と聖飛さんで、動画の下に貼られてるURLを開いたんです。そしたら、パスワードを打ち込む画面になって。僕がハッキングしたら、一つのデータファイルが出てきたんです。それで、そのデータファイルを開いたら、これが出てきたんです」賢斗はノートパソコンを操作して、暗号を画面に表示させた。

《英ゆうは語る。矢を抜け。そして、そのまま打て。もちんらすやそすにもにみちり。みらすかくやくちすこらすやといそすいか。しちかちやくちみしらひいす。もちんやぬよやちはかいすみららみ。かくすいいやかくにすかん》

「なにこれ」

「これって、暗号?」

「はい。暗号です」

「さすが、賢斗だな。俺らだったら、ここまでたどり着けないな」直哉はノートパソコンの画面に表示されている暗号を見ながら、感心していた。

「ありがとうございます」

「だから、五人でこの暗号を解くぞ。清流学園二年の学年一・二・三位と三十六位と一年の学年一位が居れば解けるはずだ」

「一人だけ二桁台ね」紅礼奈は聖飛を馬鹿にして、喧嘩を売った。

「うるせぇな。そんなのどうでもいいだろ。それより、親の安否が気になるだろ?」聖飛は正論で言い返した。普段なら、喧嘩を買うが今はそんな状況ではない。それほど、余裕がないのだ。

「……まぁ、それは気になるけど」紅礼奈は予想していた言葉ではなかったのか、呆気に取られていた。

「だったら解くぞ。一分一秒でも早く」

「分かったわよ」

 賢斗がリュックから、ルーズリーフを取り出し、全員に配った。

 聖飛はノートパソコンに映る暗号をルーズリーフに書き写した。

 ――聖飛達はルーズリーフに書き写した暗号と睨めっこしながら、暗号解きに取り組んでいた。だが、何分経っても、誰一人解けていない。

「あー意味わかんねぇ」聖飛はうな垂れた。はっきり言って、この類のものはからっきし苦手なのだ。

「一分一秒でも早く解くぞって言ったのは誰だったけ?」紅礼奈は憎たらしく訊ねる。

「俺だよ、俺。悪かったな」聖飛は紅礼奈に謝罪した。

「葵桜はどうだ?解けたか?」

「……全く」

「やを抜くのは分かるんだけどな」直哉は言った。

「そうなんだよ。でも、なんで英雄のゆうだけひらがななんだよ」

「ですよね。ハッキングならすぐに出来るんですけどね」

「……どうしたもんかな」聖飛は溜息を吐いた。

「ちょっと息抜きにハッキングしていいですか?」賢斗は言った。

「なんだよ。その息抜き方」

「いいじゃないですか。キーボードで何か打たないとイライラするんですよ」

「末期症状じゃねぇか」聖飛はふと、賢斗のノートパソコンのキーボードを見た。

「……打つ……もしかして。賢斗、ちょっとパソコン貸してくれ」

「どうしたんですか?」

「閃いたのか」

「あぁ、閃いた」聖飛は賢斗からノートパソコンを借りた。そして、ワードを開き、やの箇所をスペースにして、暗号を打ち始めた。

 Mayor.Criminal.North.Harbor.Secret.Data.Handover.May.19.Afternoon.Three.Thirty

「……英単語」紅礼奈はノートパソコンの画面を見て、ボソッと呟いた。

「葵桜。英語得意だよな」

「うん」

「訳してくれないか」

「わかった」

 葵桜は英検準1級を持っている。清流学園入学後、英語だけは一位の座を一度も譲った事がない。

「市長、犯人、北、港、秘密、データ、渡す、五月、十九、午後、三、三十」葵桜は画面に映る英単語を訳した。

「市長は犯人。北の港で秘密のデータを渡す。五月十九日午後三時三十分ってところか」直哉は葵桜が訳した言葉をルーズリーフに書きながら、単語を繋げて文章にして言った。

「たぶん。そうだ」聖飛は頷いた。

「やるじゃない。三十六位」

「うるせぇよ。三位」

「さすがです。奇跡です」賢斗は拍手している。

「……五月十九日って明日だよね」

「だな」

「どうする。行くか?」直哉が聖飛に訊ねた。

「行くしかないだろ。危険だけどよ」

「だよな。それはそれでいいとして、明日からどうするよ?」

「ここに泊まろうぜ。数日分の食料と衣服を持って来てさ」聖飛は提案した。

「マジで言ってる?シャワーとかどうすんのよ?」

「マジだよ。シャワーはペットボトルに穴あけたらできるだろ。それにこの状況だったら、家で居るよりも五人で居た方がいいだろ」

「まぁ、そうだけど」紅礼奈は納得していないようだ。

「私は賛成。ここに泊まる」

「……葵桜。分かったわ。うちもここに泊まる」紅礼奈は渋々納得した。

「OK。直哉と賢斗は?」

「俺は泊まるよ。服は俺に任してくれ」

「さすが、服屋の息子」

 直哉の実家は服屋である。東区では一番の大きさを誇っており、最新のトレンドからSSグループの作業着など品揃え豊富で住民に愛されている店だ。

「僕も泊まります」

「決定だな。じゃあ、今夜七時にここに集合な」聖飛は言った。

 他の4人は「了解」と返事をした。

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