44話 魔法陣の完成
結婚っていきなり言われてもなあ……。
俺は眼前に突き付けられた運命の選択に未だ答えを出せずにいた。
セインが俺のことを好いてくれているというのはとてもありがたいし嬉しく思う。その気持ちに応えてあげたいという気持ちは今も変わっていない。
しかし、いきなり結婚がどうとかいわれてしまっては話は別だ。
第一、それはセインの意志ではないしやっていることはアルガルドでの他国の王子との政略結婚となんら変わりない。
それに雫の存在も無視できない。雫はどう思っているのか知らないが俺は雫を守るという使命がある。
迷惑がられているのかもしれないが――一年もいなくなっておいて虫が良すぎる話かもしれないが――嫌われているかもしれないが、それでも雫が嫌というまでは傍にいてやりたいと思う。
だから昔の罪を償っている現時点において恋に現を抜かすなんてことは俺には到底できそうもない。
だが、そうしてしまうとセインはアルガルドへ帰ってしまうのか……どうすればいいんだ……。
「ってうおお! 」
「……人の顔を見てそんなに驚いたら失礼だぞ」
「すまん、近かったらびっくりして……」
なんのきなしに顔を上げると目の前にはアリアの顔があった。
どうやら魔法陣を描き終えても反応のない俺を待っていてくれたらしい。
「そ、そんなに近くはなかっただろう……そんなことより答えは出たのか」
「いや、それが……」
「まあだろうな、表情を見ていればわかる。では約束通りセイン様はアルガルドで連れ帰るぞ」
口ごもる俺を尻目に、アリアは未だ目を覚まさないセインをお姫抱っこして完成された魔法陣の前に立つ。
「おい、待てよアリア! やっぱりいきなり結婚とか考えらんねえよ! 一回落ち着いて話し合おうぜ! 」
「それでは遅いのだ。やはりお前は最後まで中途半端な奴だったな……」
「いいじゃねえか中途半端で! 世の中イエスノーで答えられないこととかたくさんあるだろ! 」
「……圧巻なほどの開き直り方だな」
「なんとでもいえ! とにかく結婚とか今は考えらんねえ! けどセインを連れて帰るのはやめてあげてくれ! 」
「……横暴な奴だ」
さっきは俺の自分勝手な行動に、なし崩し的な形で渋々従ってくれたアリアだったが今回はどうも難しそうだ。
そうしている間に魔法陣はうっすらと光を纏い始めている。
「そろそろ時間だ。そうだ、エマに早く帰ってくるよう伝えておいてくれ。あんな奴でも一応、国を代表する魔法使いの一人だからな」
こちらに背を向けアリアは片足を魔法陣の中へと踏み入れた。
煌々とした光は輝きを一層増し、二人を包み込む。
「ア……リア」
搾りだすように出された声はアリアに抱えられたセインのものだった。
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