俺のことを好きで、かつて冒険を共にした異世界の王女が転校してきたんだが……

42話 迫られる決断

「な、なんで、そうなるんだよ」

　アリアの瞳は淀みなく、今の発言が冗談の類でないことは容易に伺える。

　そもそもアリアは冗談を言うようなタイプじゃないしな。

「なぜ？　セイン様はお前に会いたいが為にこの世界にやってきたのだろう？　それで今、王女としての地位を危ぶまれている。そうなればお前に責任を取ってもらうのが筋だと思うのだが」

　さも当然のようにあっさり言ってのけるアリアに俺は面喰ってしまう。きょとんとした様子で首を傾げる姿はこんな状況でも普段とのギャップでかわいいだなんて思ってしまう。

「いや、一生添い遂げるってつまり……結婚ってことだろ？　急に言われてもな……」

「アルガルドでの明るい幸せな未来を捨てるというのなら、ミラクレアに留まるに際して同程度の幸せをセイン様に約束してもらわなければ私の気が済まない」

「私情挟んでんじゃねえか……」

「先に挟んだのはお前だろう、さあ早く答えろ」

　コイツ、開き直ってやがる……さっきまで立場がどうのこうので苦悩してたくせにこの野郎。

「いや、ていうかお前セインが俺のこと好きって知ってたのか？　」

　自分の言葉に赤面しつつアリアにそう質問を投げかける。

　体育倉庫でセインが俺のことを好きだと言ってくれていた時、アリアはそう言うように誰かに強要されているのかとセインに言ってたしな。今だってよくても半信半疑くらいに思っているはずだ。

「バカにするなよ？　セイン様とは赤子のころから一緒にいるのだ。確かに私はその手のことに関して鈍いがセイン様のことならお見通しだ」

「じゃあなんで知らないふりしてたんだよ」

「セイン様の覚悟を――王女としての地位を顧みず、国の掟を破ってまでしたこの行動に対する思いを見せて貰いたかったのだ。それに――」

「それに？　」

「セイン様がお前に思いを寄せるのも……私にだってわからないわけではないからな」

　目線を空に浮かぶ雲に逸らし、目を細めうっすらと笑みを浮かべながら言うアリアはどこか悲しそうにも見えた。

「え、それってどういう――」

「と、とにかく！　早く約束しろ！　セイン様を一生お守りすると誓え！　」

　アリアは頬を赤らめながら急に慌てだした。早くって言われてもこんな人生を左右すること即決できるはずないだろ……。

「はあ、じゃあこうしよう。私が魔法陣を書き終えるまでだ、それまでに決めておいてくれ。もしそれまでに決められなかったらセイン様はアルガルドへ連れて帰る」

　返事をする間もないままアリアは俺の手からリオスの鉤爪を取り返し再び魔法陣を描き出す。書き終えるまでといっても魔法陣は八割程完成しているのでそんなに時間は残されていない。

　さて、どうしたものか……

　困惑する俺に一瞥もくれず、アリアは黙々と魔法陣を完成させていった。