39話 発見とふきだまり
その後、幾度か道を曲がったところで俺は目的の場所へと辿り着いた。
それは二年前、異世界――アルガルドへと召喚されつい数か月前、勇者としての役目を終え帰った来た場所で通学路の途中にある公園――田頭公園である。
空間を移動する魔法というのは非常に難易度が高く、その上に二世界間を移動するともなればその難易度は更に上昇してしまうのはいうまでもないだろう。
そこで術者は、自身の魔力以外で魔法の成功を左右する『立地』を慎重に選ぶ必要があるわけだ。
魔力にはふきだまりとなる場所が存在し、何もない場所で魔法を放つ時と比べ、多少の威力増加が起きる。
同程度の魔法の使い手と戦う場合は、ふきだまりを見つけそこに陣取ることが勝利へ繋がることになるわけだ。
ふきだまりを見つけるというのは誰にでもできることではなく、魔力を可視化できることが前提条件となってくる。
魔法使いとしての才を一定以上超えると術者は魔力を肉眼で捉えることができる。
手練れになっていくにつれ、ぼんやりとしているものがはっきりと、最終的には誰がどれくらいの魔力を有しているのかさえもわかるようになる。とまあこの辺の話はまた今度にしよう。
まあつまり、田頭公園というのは魔力のふきだまりとなっており、高難易度の魔法を使うにはうってつけの場所だということだ。
俺が魔法陣で召喚された時も帰還した時もこの公園が関与していたのはアルガルドと比べ数少ないふきだまりのひとつがこの公園だったからだろう。
俺にもうっすらとではあるが意識して見れば公園全体に霧状の魔力が漂っているのが認識できる。
「ちっ、もうバレたか」
公園に足を踏み入れると俺の仮説が当たっていたことが証明される。
アリアは不審者に扮していた時に掛けていたサングラスをして、地面になにかを書いていた。
その手には大げさに装飾が施された爪をはめており、質問するまでもなく「リオスの鉤爪」であることがわかった。
「セインはどこだ」
「セイン様ならあそこで少し眠って貰っている」
目線で場所を促され、そっちの方を見るとベンチで横たわるセインの姿があった。
見たところ外傷はなさそうなので少し安心する。
「気持ちの悪い顔でセイン様を見るな」
「いや、そんな顔で見てねーし! 」
俺の顔なんて見ていなかったくせにアリアは手を動かしながら辛辣な言葉を放った。
「エマはどうした」
「ああ、あいつはみんなに質問攻めにあってて連れてこれそうになかったから俺だけだ」
「なのに、よくここがわかったな」
「俺が召喚されたのがここだったからな」
優秀な魔法使いであるエマであれば、魔力をはっきりと目で見える為ふきだまりとなっているこの場所を遠くからでも見つけてこれるだろうという考えがあっての言葉だろう。
「ていうか、アリア。お前はなんでここがふきだまりになってるってわかったんだ? 」
アリアは前にも言った通りほとんどの魔法を使うことができない。
それは卑下するようなことでもなくごく普通のことなのだが、そんなアリアは本来見えるはずもない魔力を見てこの場所に来たと思われる。
「これだ」
カチャリと音を立て掛けていたサングラスを外して掲げて見せる。
よく見るとそれはサングラスにしてはフレームに重厚感があるような気がする。
「それは……」
「『アトラの眼鏡』――王国に代々受け継がれし宝の一つだ」
アトラ? 聞いたことがある。確か昔に名を馳せた大賢者の名前だ。
「これは魔法の才がないものでも魔力を可視化できる能力がある、だから私にもこのふきだまりが見えるようになったのだ」
「ああ、なるほど」
説明を終えると再び眼鏡を掛け直し、アリアは作業に没頭した。
アリアは魔法陣を描き終えたら気を失ったセインを連れてアルガルドへと帰っていくだろう。エマは最悪自力で帰ってこれるだろうし。
俺は一刻も早くアリアの行動を止めないといけないのだが……体は中々に動かない。
別にアリアに魔法で動きを封じられているとかでは決してないのだが、たった一つだけ俺の胸の中にはつっかえるものが残っていた。
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